ウエストランド海軍
「ユータリアとウエストランドは兄弟の国、仲の良い兄弟が国王の座を譲りあったので、二人が国王になるために、ユータリアを分割したと歴史の教科書には載せていますがね。あれは嘘です」
「嘘ですか」
「初代国王の日記にはユータリアの国王になった弟への呪詛で満ちたいます。多数の貴族の支持を得た弟への恨み言が綿々と書かれています」
「ウエストランドは魔族との戦闘は国を避けてむしろ友好関係になるように努めました。ええ、奴隷貿易を魔族と始めます。建国当初からウエストランドは魔族との友好を深めるのが国是でした。ウエストランドの軍隊が強くなくても良い理由は、ユータリアがウエストランドに侵攻すれば、魔族がユータリアに攻め込むという契約を結んでいるからです」
「カバラ殿、そのような秘密を私に話しても良いのでしょうか?」
「別に構いませんよ。エマ様は魔王を討伐した勇者ですから。それに今のユータリアにはウエストランドに攻め込むほどの軍隊はありませんしね」
「私、個人としては、ウエストランドとユータリアをエマ様に再統一していただきたいのです」
「と言うのもの、この地図に載っていない国々が力をつけ始めました。人間の統治領域全体が水不足に落ち入っているお陰で、その国々はユータリアに軍隊を派兵するのは難しい。ですが水不足さえ解消されれば各国がユータリアをめぐって争い始めます」
「やはり、エマ様は、ウエストランドの軍隊を見る必要があると思います。我が国の海軍をです」
「海軍?」私は従者の案内人さんの顔を見た。首を横に振っている。ウエストランドに海軍があることは知られていないみやい。
カバラさんの用意した馬車に乗せられた。私たちは目隠しをされて、場所がわからないようにあちこち巡らされた。
私たちの目隠しが解かれるとそこには巨大な船が何隻も停泊していた。
「この船の動力は蒸気機関です。魔道具ではありません」
「海の魔物のクラーケンもこの船一隻で撃退できる大砲を何門も備えています」
「エマ様のドラゴンが空から火炎を吐かれると、沈没は必至でしょうけど」カバラさんが笑い出した。
「私たちが、十年の長きに渡って育てた海軍が一人の少女に必敗の運命とは、笑うしかないでしょう」
「ユータリアの祖法では大型の外洋に出ることができる船を建造することは禁じられていましたから。だからこそウエストランドは多数の軍艦を建造することにしました。海の向こうからやってくる侵略者に備えてです」
「ウエストランド、最大の秘密がこの海軍です」
「ウエストランドはこの海軍を外征に使うつもりとかはありませんか?」
「我が国の陸軍は非常に弱いですから、陸上での戦闘は必敗ですので、外征はできません」
「私としては我が海軍とエマ様の軍隊との統合が外征への条件だと思っています」
「エマ様にはウエストランドの女王になっていただくのがもっともウエストランドにとって最適解だと考えております」
「国王陛下はいつでも退位されます。国王陛下はエマ様がここに来られた時点で教会に入られるとおっしゃっておられているので」
「国王陛下はウエストランドがこのままの状態でいることを望んでおられますが、ユータリアが倒れれば遅かれ早かれ、大聖女国を除いて、ユータリアは海の向こうの国々の支配下に入ります。ウエストランドは陸上の防衛を独自にやらないといけません。しかしそこまでできるだけの金が我が国にはありません」
「私も国がユータリアの陸上面の防衛を担当せよということでしょうか?」
「そうです。海上であればウエストランド海軍が担当します、もし、敵が上陸した場合はエマ様が、必ず敵を殲滅すること。ユータリアには決して的の橋頭堡は絶対に作らせないでいただきたい」
「私が派兵できる海沿いの国はホーエル・バッハだけですから、それ以外の貴族の領地には軍隊は送れませんし、それにそれだけの兵力もございません」
「ウエストランドが資金援助をいたします、大聖女国には陸上兵力の増強をお願いしたいものです」
「国王陛下を教会に入れた後ですか?」
「エマ様がウエストランドの女王になった後でしょうか?」
「臣下の者と相談してからですね。旱魃が二年間続き、その後は長雨が続きます。それと原因不明の肺炎の流行が始まっています。軍事にばかり力を入れて良い時ではございませんから」
「今はウエストランドからの水と食料の支援だけで良いかと思います」
「エマ様は海水を真水に変える魔道具を開発されたと聞きました」
「ユータリア以外の国々も関心を示しています」
「仮に軍艦にその魔道具を積めば、大遠征ができますから」
「ユータリアには各国の諜報機関が入りこんだと聞きます」
真水製造のための研究機関おとか技術者とか実験施設の警備を強化しないと大変なことのなってしまう。
「カバラ殿、有益な情報ありがとうございます」
「ユータリアの人は視野が狭いので、私はそれが本当に恐ろしいのです」




