ウエストランド国王との会談
「あのう、その姿がエルフの正装ですか?」上から下まで全身緑の服で金属は一切使っていない。弓矢を装備しているので、これは封印しておかないとマズい。
案内人さんは従者には見える。問題はドックさんと猫さんだ。護衛なのにヒラヒラした文官の衣装になっている。時間もないので幻惑魔法で護衛の兵士に見えるようにはした。
「従者のみなさん、一切王宮では話さないようにしてください。敵地ですので不用意な一言で生命を落としますから」
「みなさんは貴族ではありませんから、たとえ私の従者であっても、貴族に無礼を働いたと言われると私も救えません」
「エマ様、百人程度でしたら即座に私が片付けますけれども」サラクさんは空気がまったく読めないのがわかった。
「サラクさん、私はユータリアとウエストランドの友好のためにきたので争うつもりはありません」
「エマ様、こちらは友好のつもりでも相手がそうでないことが普通です。エマ様はドラゴンを使役されておられますので、王宮の上をドラゴンに旋回させておくのが良いかと思われます」
完全に威嚇しながらの交渉になってしまう。それは避けたい。
「サラクさん、時期尚早です。却下です、威嚇しながらの交渉はしません」
「サラクさんには、案内人さん、ドックさんと猫さんの護衛をお願いします」
「エマ様の護衛はどうされますか?」
「それこそドラちゃんがいますから、問題ありません」
「ユータリアの王妃でエマと申します。国王陛下に拝謁が叶いましてありがとうございます」
「遠路はるばるよく来られた。余も噂に高いエマ殿に会えて嬉しい」
まったくもって迷惑だと顔に出ている。それってマズいのでは。
「ユータリアは旱魃で大変なようで、余としても何らかの支援をしたいと思っていたのだが、ユータリアからの要請がなかったのできなかった」
あの結界は貴族、魔法使いとその僕を弾くから使者がウエストランドに入るのは不可能だと思う。
「エマ殿が来られたので食料支援をしたいと思っている」
食料をやるから早く帰れと顔に書いてあるよ。
「陛下ありがとうございます。ウエストランドの市場には多種多様な食べ物が並べてあって羨ましい限りでございます」
「ユータリアも内乱がなければ、ここまで困窮もしませんでした。統治とは本当に難しいものです」
「ウエストランドは商業の国ゆえ、争いは利益を生まないと貴族も臣民も心得てくれているお陰であって、余はとくに何もしていない」
奴隷貿易を黙認しているお陰の間違いでは。
「母親は違うが姉上は元気にされているのだろうか? 山城から王城に連れ戻されたと聞いたが」
「前の王妃様は、塔にこもられていると聞きました。私はまだお会いできておりません」
「前の王妃様からウエストランドに何か依頼とかはございませんでしたでしょうか?」
「姉上からウエストランドの兵をユータリアに派兵するようにと親書が届いたが、今のウエストランドには他国に派兵できる力はないとお断りをした」
異母姉のこと嫌っているだろう。それって他国への派兵要請は外患罪に問われる話で言って良いことではない。最悪、大事な姉上が死罪になってしまう。
「賢明なご判断だと思います」
「余はウエストランドが平和であることを常に願っている。肉親の情で流されることはない」
綺麗にまとめたね。派兵はしなかったが、ウエストランドが王族暗殺計画の黒幕なのだろうか? 私はやはり違うような気がする。ユータリアの力がさらに弱くなれば、ウエストランドはユータリアの上に立てる。でも、その程度のメリットしかないのだけれど。
まあその証拠はないが、金にまかせてユータリア内の貴族にもウエストランドの手が伸ばしているかも?
ウエストランドの強さはもしかしたら魔族と同盟関係にあるのかもしれない。魔族とウエストランドは持ちつ持たれつの関係かもしれない。
「エマ殿、本来であれば国賓として持て成すのだが、今回は非公式の訪問ゆえ晩餐会などは行えない。そこは了解してほしい」
「陛下とこのようにお話ができるだけで、私の目的は達しました」
「そのように言ってもらえると余も嬉しい」
早く帰れモードが出てますけど。
「一つお聞きしたいのですが、ウエストランドもユータリアと同様に雨が降っていないはず。なのに水が豊富にある理由をお尋ねしたい」
「ウエストランドは貿易国ゆえ水も輸入していた。世界中が旱魃ではない」
言質が取れた。人間の統治領域は旱魃だがそれ以外の場所には雨が降る。つまりウエストランドは人間の統治領域以外の場所と交易していることを国王自ら認めた。後ろに控えているカバラが苦い顔をしている。




