謀叛
母上が短剣から手を離して「魔王から私の魂を抜き出して、ホムンクルスに移したお前を魔女殺しの短剣で殺せるとは私も思ってはいなかったけれども、まさか人間をやめていたとは思ってはいなかった」
「母上様」
「お前の母親は死んだ。ここにいるのは養女のエンドラだ」
「私はエリザベートとともに生きることにする。王家もバイエルン家ももはや知ったことではない」
「エマ、エリザベートと私の保護をお願いする」
「妹のエンドラ様承知しました」
「エマ、王家は後どれくらい持ちそうかしら? 移動の準備をする必要があるので教えてほしいわ」
「そうですね。あと一年足らずでしょうか?」
「じゃあ、来年は大聖女国に行くので、大聖女国での私たちの屋敷とか使用人とかの手配をお願いするわ」
「母上様、バイエルンに帰られないのですか?」
「ハンニバルもレクターもまったく信用ができません。二人とも私にそっくりですから」母上が笑っている。私は初めて母上の笑顔を見た気がする。
「母上、お尋ねしたいことが一つあります、私が誕生した際、女王の徴がございましたでしょうか?」
「女王の徴と世界の終わりの徴がお前にはあった」
「私は本当に困ったのよ。私は今の生活で満足しているのに、娘が女王になって世界を滅ぼすのだから」
「お婆様も母上も、バイエルン家こそが正統な王家で将来、女王が生まれる家系だとうるさく言っていたから、お前の女王の徴を見たお婆様も母上も大喜びされたわ。初めて見たのよ。母上の笑顔を」
「お婆様は満足されて亡くなり、お前を女王に相応しい教育を与えるようにと母上は繰り返し私におっしゃった」
「私の願いも知らずに、バイエルン家は公爵家に戻るだけで良いのよ。今の暮らしが続けば良いの」
「母上が亡くなれてから、何度も毒を盛ったり、刺客を放ったりしたけど、どういうわけだかお前は生きている」
「その内、お前は、上二人よりも馬鹿だし、徴はあっても捨てておけば良いと思うようになったわ。五歳のあの日までは」
「それで話はおしまい。その短剣だけど元々バイエルン家の所有物だから、盗品ではないから」
「適当に処分しておいてね。お姉様」
この短剣は盗品ではないと言われても、現状盗品扱いだし、とりあえず私が保管しておくの方が良いか。危ないし。
母上はそう言うととっととエリザベートが待つ離れに帰って行った。
短剣は相変わらず私に刺さったままな。刺さってはいるけど私の体には僅かに届いてない。私がシールドを解除すると、ポトリと短剣が床に落ちた。
私はその短剣を拾うと魔法の箱の中に短剣を封印した。私以外の者にはその封印は解けない。
クランツ王子を呼びに来た伝令が母上だと感じた瞬間。私は精霊の王と一体化した。そして私の周囲には無数のシールドが張られていた。一番大変だったのは水の精霊と土の精霊と風の精霊が母上を攻撃するのを必死で私は抑えることだった。
クランツが私の部屋に走り込んできた。お付きに任せれば良いのに。
「ガキ、ウイルが刺された。お前は腕の良い外科医だと聞いている」
「何としでも助けろ。お願いだ」
てっきり母上のウソ話だと思っていたのに。私はウイルのところに駆けつけた。傷は深いが致命傷にはなっていない。私はその場で緊急手術をした。剣には毒も塗られていたが、発見が早く、解毒剤が効いた。
「エマを摂政に任ずる」そう言うとウイルは眠ってしまった。
実行犯は捕らえられて、私の前に連れてこられた。一流の暗殺者だけあって何もしゃべらない。
「あなたに恐怖を与えても褒美を与えても何もしゃべらないのは知っています。ですから薬物であなたの意思に関係なくしゃべるようにします。私はこう見えても腕の良い医者なので、あなたに害が残ることはありません」
私はその男の右腕に注射をした。男の顔はボーッとした表情になった」
「あなたに国王陛下の暗殺を命じたのは誰ですか?」
「黒覆面の男の格好をした女」
「名前は聞かない契約だった。前金と段取りの書かれた書面を渡された」
「書面は契約と同時に燃えたので残ってはいない」
おかしい。魔法契約を結んで失敗したのにどうしてこの男は生きているのだろうか?
「後、気になったことはありますか?」
「女はこの国の者ではなかったと思う。言葉のアクセントが微妙に違った」
「外国人ですか?」
「外国人ではなく、西の国の者だと思う。俺の母親も似たようなアクセントをしていた」




