師団長クランツが護衛になる
「なんで俺がガキのお守りなんかしないといけないんだよう」
「クランツ様、お守りではなく、守るです。ウイル様から頼まれたのでしょう!」
「お前なんか、俺がいなくてもどうにかできるだろう。勇者なんだから」
「ウイルの方がヤバいんだよ!」
「どういうことですか?」
「ウイルが死ねば、教会に逃げ込んだ第三王子が引っ張り出されて、山城から王妃がやってくる」
「もしもだガキを殺せば、大聖女国から灰色熊軍団が王都に進軍してくる」
「アカデメイアに駐屯している第一軍団が王都に向けて進撃してくる」
「近衛師団は俺と一緒に俺の領地に逃げ込む」
「王家には戦える軍隊がないので、一巻の終わりだ」
「ガキには人質の価値あるので、まともな神経を持っているヤツなら狙わないって」
私の母上を除く。魔女殺しの短剣とか母上好みだもの。私には母上の気持ちが良くわかる。一番母上に似ているのが私なのだから。
私の使い魔がエリザベート周辺に放ったものの、ことごとく母上に邪魔をされて近づけない。
母上なら魔女殺しの短剣の話を知っていてもおかしくはない。魔女殺しの短剣は元々バイエルン家が王家に献上した品の一つだし、魔女殺しの短剣と王からの命令書が一緒に渡されることで、暗殺の依頼だとわかる。
母上はなぜか私のことになると冷静ではなくなる。
「エマの額には世界を終わらせる者の徴と正当な女王の徴の両方が刻印されているから、冷静ではいられないと思うね」
「青い小鳥さん、かなり不穏なことをおっしゃいましたけど、私の額のどこにもそのような徴はございませんけど」
「エミル様、ユグドラシル様、ディアブロにもイアソーにもそして私にも、はっきり見えるのだけど」
「母上は、神でも世界樹でも悪魔でも使徒でも精霊の王でもございません。見えるわけがございません」
「エマが誕生した当初は徴は輝いていたので人間でも見ることができた」
「エマの誕生が一月伏せられたのはその徴も輝きが消えるの待っていたから」
「青い小鳥さん、母上が私にそんな特別な徴があれば、私を放置するはずがないではありませんか?」
「放置などしていない、毒を盛ったり、刺客を放ったり散々やって、ついに母親自らエマを殺害しようと手を下した」
「まあ、そうですけど」
「そして今はエマは王妃になった。しかもこの国最強の軍団を配下に置いている。後は国王さえいなくなれば、女王陛下の誕生だ」
「まったく望んでおりません」
「エマの母親もそのことはよく知っている」
「だったらどうして、放っておいてくれないのでしょう!」
「山城から魔女殺しの短剣と王族の命令書が母親の元に送られたから」
「ウイルが今は国王です。前国王陛下から位を譲られました」
「戴冠式はやっていない。エマにしてもウイルとは婚約の儀式すらやっていない。つまり二人とも偽りの王と偽りの王妃でしかない」
「正統性には欠けますよよね。確かに、しかし、母上がなぜ王妃様の命令に従うのか私にはまったくわかりません」
「エマの母親は昔日の王家が好きだった。王妃に憧れていたからだろうね、エマの母親も過去に囚われている者の一人だ」
「青い小鳥さんは、母上がもう一度私を魔女殺しの短剣で殺しにくるとおっしゃるのですね」
「確実な未来だと言っておこう」
「私もそうは思ってはいますけど、今、私を殺してもクランツ王子が言うように王家が破滅する未来しかないのですが」
「クランツ師団長、ウイル国王陛下が賊に襲われました!」
「言わないことじゃない、王妃より国王だって言ったじゃないか!」
「ガキ、自分の身は自分で守れ!」
クランツ王子は護衛対象の私を一人残して部屋から駆け出した。後には伝令がなぜか残っている。
「母上様、相変わらず見事な変化の術でございますね」
「エマにわかるとは、私もエリザベートの世話ばかりしていてで腕が鈍ったわね」
母上の手には魔女殺しの短剣が握れられていた。
「私も、もう一度人生をやり直せるかと思ったのだけど、短剣と命令書がそろうとね。こうね、せざるを得ないの。バイエルンの人間だから、エマも知っているように、この短剣には魔法は通用しないから、諦めてね」
母上は私との距離を詰めて私を短剣で刺した。
「母上、どうかされましたか?」
「エマ、お前は人なのか?」
「私、おそらくもう人ではないと思っております」
「私もお前は、人ではないと今確信した」
短剣はしっかりと私に刺さっているのだが一滴も血液が出ない。




