ユグドラシルの枝を植えて回る
「あちこちってどこにですか?」
「ええと、あちこち」
「ユグドラシル様には人が付けた地名はわからない」と青い小鳥さんがユグドラシル君のフォローに入った。
「そこに枝を集めておいたから、エマ、植えて回って」
そこには小山ほどの枝が置かれていた。
「ゆきちゃん、これ全部持てる?」
「さすがに無理ですね」
私とゆきちゃんは持ってるだけの枝を持って王家直轄領に戻って北の村に一本ユグドラシルの枝を差した。すると大地の呻き声が止まった。
「エマさん、肺炎患者が出た地域を重点的に回って枝を差していくしかないですね?」
「とりあえず今はそれしかできないわ。できればキョムが出てこれないようにしたいものね」
「大地の嘆きが強いところにキョムは現れた。だとしたらドラゴンたちは絶望していたのだろうか?」
「ねえ、ドラちゃん、ドラゴンさんたちって絶望したり悲しんでいたのかな?」
「キュー」と私のポケットから顔を出してドラちゃんが返事をした。何となくだけど、違うって聞こえた。
「ドラゴンさんたちは、絶望もしていなければ悲しんではいないみたい」
「ドラゴンの谷にキョムが現れた。魔族の支配領域のドラゴンの谷には旱魃は関係しない、ドラゴンさんたちは絶望もしていない。なのにキョムが現れた。謎ですね」
「確かにそうね。どうしてかしら。大地の嘆きはたぶんキョムが現れたせい。でもなぜ、ドラゴンの谷にキョムが現れたのか?」
「この世界全体がおかしくなっているのかもね。やはりその原因は龍の一族がやっている旱魃だと思うの」
「龍の一族のみなさんにお願いしてキョムもやってきたわけなので、旱魃とか長雨とかの人間への罰をやめてもらえないかお願いしようと思っているの」
「エマさん、人間が自然を破壊しているから、龍の一族が人間に罰を与えたわけなので、先ず人間側が誠意を見せないとダメなのでは」とゆきちゃんの正論に言葉で私は詰まってしまった。
私の国でも相変わらず鉱石をガンガン掘り出しているし、樹々も伐採している。これではいけない。でも、みんな生活がかかっているので、簡単には止められない。私のポンコツ頭ではどうして良いのかわからない。
「ううう、そうよね、反省を態度で示さないといけないよね」やっぱり」ミーアさんと早急に相談しないといけない。他の国々にも協力してもらわないとダメだし。最大の難関は経済的に余裕のない王家なんだけど。
「エマさんには大地の嘆きは聞こえるのですよね」
「集中すればなんとか」正直に言うと至るところで聞こえるので、今は私は聞こえないようにしてしまった。
私とゆきちゃんは、ニコラを手伝って肺炎患者の治療にあたった。確かに瘴気が減った。でもユグドラシルの枝を差しても完全には瘴気は消えなかった。それでも瘴気が減ったお陰で治癒する人たちも増えてきた。
その後、私たちはまさに、王家直轄地を東奔西走することになった。しばらくして王家直轄地も落ち着きを取り戻してきたので、王家直轄地から逃げ出した難民さんたちが少しずつ戻ってきてくれたのはありがたかった。
ウイルから、王家直轄地ばかりではなく、王家支持派の貴族の領地にも行ってくれとうるさいくらい言ってくるけど、優先順位一番は王家直轄地。王家直轄地は壊滅的な状態なのがウイルにはわかってないのか? あるいは貴族向けのアピールなのか?
「国王陛下も王家支持派の貴族が、バイエルンやホーエル・バッハの庇護下に入るのを止めようと躍起になっているから、エマ、無下に断るのはどうかと思うよ」
「名ばかり王家なんだから、他人より自分のことだと私は思うの。ウエルテル。どうせ王家が倒れるのは時間の問題なんだし。なんとか地方領主の位置には留まってほしいのが私の願いなの」
「大聖女国に編入させたらどうかな。エマさん」
「私の中では既に編入済みの扱いなんだけど。ヴィクター」
「エマさんは王妃だしね」
「誰にも王妃様って言ってもらえない王妃だけどね」
王家直轄地は問題だらけ、水はないし食料はないし、肺炎以外にも病気が蔓延しているし、荒地は多いし、本当に今まで何をしていたのか? 王家の役人は無能の集まりかって思うことも多かった。でも、なんでこんな優秀な人がこんな辺鄙なところにいるのって人も多かった。優秀な人ほど遠くに飛ばされたみたい。
人事権はウイルにあるのだけど、私は優秀な人を遊ばすほど人間はできていないので、無能は王都に帰らせて、優秀な人をそこの代官に勝手に据えた。ウイルから、事前に伺いを僕に出してから、代官を交代させてほしいと、言ってきたので、すべての代官のクビをすげ替えるとまとめて伺いを出しておいた。




