魔族との協定
私が魔王を退治した際に人間は魔族の支配地域に入らない。また魔族も人間の支配地域には入らないという協力を結んだ。なぜか私は精霊扱いになっているので、協定違反にはならない。私は人間はやめていないのだけど。今も納得できていない。
「エマさんには悪いのだけど、魔族の王に今回だけの特例を認めてもらえないか頼んでもらえないだろうか?」
「ヴィクター、私にパシリをしろと言うのか? 良い度胸じゃないか」
「エマさん、ウエルテルには優しいのに、なぜ僕が言うと怒るのかな?」
「ヴィクター、ウエルテルは尊敬できるリーダーだよね。君は単なる魔導具バカ。その違いだね」
「エマ、ヴィクターで遊ばないで」
「ウエルテル、私が魔族のリーダーさんとこに行くとね。リーダーさんは魔族の大軍を率いてドラゴンの谷に進軍する未来が私にはチラチラ見えたりするわけ」
「そういうことで、ウエルテルもヴィクターもしばらく人間をやめてもらえるかなぁ」
「ウエルテル、僕は今ものすごく嫌な予感がしたのだけど」
「ヴィクター、僕もだよ」
「注目してください。このスライムは生き物の精気を食べるスライムです。このスライムを頭の上に乗せると全身がスライムになります。人間を簡単に魔物に変える優れものです」
「エマ、ボクたちをスライムにするわけだね」
「エマさん、僕たちそのスライムに溶かされたりはしないよね!」
「ごめんなさい、初めての被験者があなたたちなので絶対大丈夫とは言えないの」
「たぶん、大丈夫だと思う」
ウエルテルとヴィクターの頭にスライムを乗せた。二人とも溶かされることはなかったけれど「気持ち悪い、ズボンの中にスライムが入ってきた」とヴィクターが涙目で訴えていた。
「体が急にダルくなった」
「精気を吸われているから、その分私から魔力を補給するので」
「僕は今スライムになっている。心も体もスライムだ」とヴィクターがやたらテンションが上がっている。
私はスライム二匹を引き連れてドラゴンの谷に向かっている。
「エマさん、この先一キロメートル、生まれたばかりのドラゴンがいる」と完全にスライム化したヴィクターが突然スキルを発現させた。
「なぜか親がいない、助けるとまずいことになる予感がする」とヴィクターが言う。
生まれたばかりの可愛いドラゴンの赤ちゃんがいた。このまま放置すると他の魔物の餌になるのは決まっている。ヴィクターはまずいことになると言ったけど、どうせ私たちはまずいこと、ドラゴンを狩りにきているのでいまさらだと思って私はドラゴンの赤ちゃんを拾った。ものすごく懐かれている。ドラゴンってペットにできるのだろうか?
ドラゴンの谷にやってきたものの、ドラゴンはご不在だった。
「エマ、なんとなくだけど、ここにドラゴンは戻ってはこない気がする」
「私もなんとなくだけど、その通りだと思う」
「ウエルテル、エマさん、ドラゴンはどこに行ったわけ、僕たちドラゴンを狩にきたので、エマさんの抱えているドラゴンを育てて魔核を取るしかないのか?」
「ヴィクター、私のドラちゃんをどうするって言ったのかなぁ!」
「エマさん、ドラちゃんを育てて大切二するよね、ウエルテル」
「僕に振るなよ。エマもそんな強烈な殺意をヴィクターに向けないで」
私はドラゴンの赤ちゃんにドラちゃんと名前をつけた。ドラちゃんを害する者は私が排除する。やはり私は母上に似ている。自分にとって大事なものは守り切りたいと、勝手に思ってしまうし、そうなってしまう。冗談だとわかっていても許せない私をどうしようもない。
私の弱点かもしれない。ドラゴン繋がりで小龍君に相談してみようか? トカゲとボクを一緒にするなと怒るかなぁ。
「エマ、谷の奥に行ってみようか?」
「そうだね、せっかくここまできたのだし、見て周りましょうか」
私たちは谷の奥に入って行った。元沼地だったところに出たらそこにはたくさんのドラゴンの死骸があった。ウエルテルがドラゴンの死骸を改めている。
「まさかとは思うけれども、病死だ」
ヴィクターは転がっている魔核をせっせと集めていた。
「ウエルテル、ドラゴンも殺す病気ってまずくないですか?」
「私たちが人間の世界に戻ったら、人間がバタバタ死んだりしたら大問題だよ」
「エマは人間ではないし、今の僕たちはスライムだしね」
「一度魔族の街に行ってから帰るのが良いかもしれない」
「許可できません。魔族の人たちで人体実験はダメです」
「ウエルテル、エマ、病気の原因はこの元沼地だと思うよ」




