シャイロックさんが来訪する
「聖女に会いたい」と下宿にシャイロックという初老の男性がやって来た。
「無法な宣言はすぐに撤回しろ、偽聖女」
「偽聖女だと自分でも思うのでそこは反論する気はありません」
「無法だと思うのなら、どうぞ国王陛下に訴えてくださいませ」
「地主は地代で生活をしている。勝手に土地を使われては生きてはいけない」
「ここら辺りの土地の値段はこんなもんですから金貨二十枚で私が購入します。どうか今日、明日中にアカデメイアから出て行ってくださいませ」
「これでお話は終わりです。
「ここはワシの土地だ! 誰が売るものか」
「シャイロックさん、あなたに何ができるのか聞かせてくださいませ」
「こうしてやる」とナイフで私に襲いかかってきたけれど、既にシャイロックさんからいくらかエーテルを抜いていたのでナイフを持っつのがやっとだった。
「悪魔相手に意地を見せただけで、満足だ」とシャイロックさんは笑い出した。
「ワシは聖女に無礼をはたらいた。煮るなり焼くなり勝手にしろ」と言い出した。この人一体全体何をしにきたのか?
「シャイロックさん、数千人の王家の兵士を追い払った私にナイフ一本で何ができると思ったのですか?」
「悪徳因業ジジイと名を馳せたシャイロックの生き様を示しにきた」
「シャイロックさんはケチですか?」
「ワシはドケチで有名だ」
「アカデメイアの街の財政は毎年赤字なので、シャイロックさん見てもらえないですか?」
「なんでワシが街の財政を見なきゃいけないのか!」
「アカデメイアの財政担当者が無能なので」
「これがアカデメイアの財政状況です。見るだけ見てください」
「コイツらバカか」
「はい」
「ワシらが納めた税金がこんなに無駄遣いされていたとは、担当者に会わせろ。ぶん殴ってやる」
「シャイロックさん、アカデメイアの財政は立て直せそうですか?」
「無駄を省けば可能だ」
「シャイロックさん、あなたをアカデメイアの財務長官に任命します。シャイロック伯爵と爵位も差し上げますので、アカデメイアの財政を立て直しくださいませ」
「ワシは無法な行為に文句を言いにきただけで、そんな大それたお役はごめんだ」
「悪徳因業ジジイと名を馳せたあなたの腕前を見せてくださいませ」
「財政が立ち直った後は、シャイロックさんのおっしゃる通りにしますから」
「偽聖女、本当だな。約束できるな」
「はい、エミル様の神名にかけて誓います」
「財政局に一緒にきてくださいませ、役人に紹介しますから」
シャイロックさんが悪意いっぱいの顔になって笑った。
シャイロックさんが財政局で発した一言「ワシは無駄が大嫌いだ、ふざけた仕事をした奴はタダではおかない」だった。
私もそれに被せて「汚職、無駄遣いは即牢屋行きと思ってくださいませ」と言ったら数人が倒れた。汚職をしていたみたい。
シャイロックさんは税金をいくらか自分の懐に入れるかと思っていたのだけど、帳簿は完璧だ。シャイロックさんは、お金は大好きだけど不正で得たお金は大嫌いという超潔癖症な人だった。私はシャイロックさんを見損なっていたことを後年、お詫びすることになった。
アカデメイアで空き地に野菜を植える、ニワトリやらが飼われ始めた。徐々に街の人の顔色が良くなってきた。
大聖女国の第一軍と王家の討伐部隊が激突した。王家の部隊は多くの戦死者をその場に残して撤退中。王家の発表によれば転進中らしい。
学部長から緊急の呼び出しがかかった。
「王家からの命令書という形の嘆願書が私のところに届けられた。大聖女国の軍隊を大聖女国に戻せ。エマを妃として迎えるそうだ」
「王家は何を考えているのか? 僕にはまったく理解ができない」
「学部長、私にも理解できません」
「これはバイエルン公爵からの手紙だ」
「父上からの手紙ですか?」
「申し訳ないが中を改めさせてもらった。エマの父上はアカデメイアに来られるそうだ」
「父上が軍を率いてですか?」
「お供と三人で来ると書かれている」
学部長から父上の手紙を受け取った。父上は、私の軍を止めたいけれども三人では止められないのでアカデメイアで私と話し合いをしたい旨が書かれていた。
「学部長は父上が何をしにここに来ると思われますか?」
「お父上は王家と大聖女国との戦争を終結させるため、その仲介役として来られるはずです」
「今回の戦闘は、戦闘とは言えないものだと報告が私に上がってきた。大聖女国の軍隊による一方的な王家部隊の虐殺だったとの報告を私は受けている。王家の部隊は降伏したのに戦闘は終わらなかったそうだ」




