魔道具回路研究部に新入部員その3
ミカサがお付きの人を連れて来た。この人も黒い髪で目はブラウン。同じ国の人だと思う。
「彼女はカオリ、私のボディーガード兼メイド」
「カオリです。魔道具回路のことはまったく分かりませんが、よろしくお願いします」
「カオリは二年生だから、カオリ先輩と呼ぶこと、いいね、エマ、ヴィクター」
「了解しました。ミカサ先輩」
「私もです。ミカサお姉様」
「後は任せたカオリ」
「お任せください、ミカサお嬢様」
ミカサは颯爽と陸上の練習に行ってしまった。
「すみません、ご迷惑をおかけしまして」
「エマ様、お嬢様はああ言う方ですから。私、ひとつ嘘をついてしまいました。それは私の父と兄は魔道具を作っております。まったく魔道具と縁がないわけではございません。私も少しですが回路図は読めます。でも実際に描いたことはございません」
「良かったです。まったく興味がないのに、ミカサお姉様に命じられて部員になるのはお気の毒だと思っていましたので」
「ウフフ、ミカサお姉様ですか? エマ様はそうですねミカサお嬢様の妹君に少し似ておられますね」
「ミカサお姉様には妹君がいらっしゃるのですか? 私のことはエマと呼んでくださいませ」
「残念ながらそれは無理でございます。お嬢様の妹君ですからエマ様としか呼べません。おそらくミカサお嬢様も呼び捨ては決して許されないと思います」
主従関係は崩せないからここは私が妥協するしかないか。ミカサもカオリさんのことはカオリ先輩と呼ぶように言っていたしね。
「カオリ先輩、私の着火の魔道具の回路図何ですけど、どう思いますか」
「これは独創的ですね、ここで魔力を分岐させるとなるほど、魔力効率が三割程度上がりますね。なかなか思いつかない発想ですね」
カオリさんって謙遜し過ぎだと思う。ヴィクターがドヤ顔をしているのがかなり気に食わない。私は天才でも秀才でもない平凡な女の子だからね。優秀な人たちに囲まれると、正直疲れるよ。
「カオリ先輩、僕の誘導式魔道具の回路図はどう思いますか」
「これだと前方に二人以上の魔法使いがいると、その内の誰かに当たる事になると思います。魔力の波長を固定させないと危険だと思います」
「やっぱりかあ、相手の魔力の波長がわからないと使い物にならない」
「わかっている波長を登録しておけば、それ以外の魔法使いに向かって飛んで行くので、使えるのではないでしょうか?」
「その手があったのか。ありがとうございます。カオリ先輩」
もしかして一番この部で、ダメポイのはやはり私ですね。また歪んだ方向にいきそうだ。
「エマ、カオリは凄いだろう」
「カオリ先輩はヴィクター並みに凄いですね。私、いじけてしまいそうです」
「カオリの家は代々魔道具を作って来た家だ、回路図は数千と見て来たはずだ。わからないことがあれば、カオリに尋ねたら良い。本人はメイド以外の仕事は嫌がるがな。魔道具のセンスは兄より優れていると、私は思っている。本人はメイドが大好きなので、私の付き人になってしまった」
「カオリは格闘技のセンスも抜群だから、時々教えてもらえ。カオリはかなり嫌がると思うので、私からも十分言っておく」
「ありがとうございます。ミカサお姉様」
「エマ研究部がなくなったので、学校内でエマを襲う者はいないと思う」
「学校対抗戦あたりで仕掛けてくるだろうな、行軍訓練で仕掛けたように」
「行軍訓練の灰色熊は、母上が放った魔物ですか?」
「あれは陽動だな、灰色熊に注意が行っている間にエマをヤルつもりだったのが、肝心のエマが灰色熊の正面に行ってしまって失敗した。以後はエマの実力を知った刺客が臆したので仕掛けられなかった」
ミカサの読みは当たっていると思う。予科に行かせたのも母上を憎んでいるゴーモン先生に私を殺害させようと仕組んだと見るのが妥当だもの。
母上は執念深いから次から次へと厄介ごとを起こして他人に迷惑を掛ける。あの性格を良い方に向けたら、どれだけの人が助かるのかと思うよ。




