第五王子の憂鬱
「エマ殿も僕も討伐とは言っているけど、王家の軍はただ進んでいるだけなんだよ」
「国王陛下の評判を下げながらね」
「王子様、おっしゃっている意味がわかりません」
「王家の軍の前には敵はいない。自称国王もその軍隊も領民すらいない。その土地の食料を食いつぶしながら進軍している。王宮内でそれを勝利だと喜んでいる人たちがいるのが不思議だよ」
「補給はしていないのですか?」
「食料は現地調達ということになっている」
「そんな! 今ではどこもギリギリの食料しかありません。余分な食料はありません」
「だから、みんな持てるだけの食料を持って大聖女国に向かっているよ」
「うちにですか?」
「大聖女国には雨が降るし、食料対策もちゃんとしているから。僕も難民になったら大聖女国に行くと思う」
「これ以上の難民の受け入れは無理です。王家で何とかしてください」
「旧来だと困窮者には食料が下げ渡されたのだけど、第一王子が備蓄食料を売り払ったので何ともできない」
第一王子は本物のクズだった。私の元婚約者だったのが私にとって黒歴史になった。
「サーウエスト領が穀倉地帯になれば餓死者は減ると思うので、エマ殿には頑張ってほしい」
「それで私にサーウエストを任されたのですね」
「僕は敵対者であっても利用できる者は利用する」
「王子様のお考えは少しはわかりました。大聖女国は来年、旱魃になった場合は王家に食料支援はします、それとなぜ王子様はフス領とはおっしゃらないですか?」
「ありがとう。フス領って地図には載っているけど、誰も公式な場を除いて、大聖女国って国王陛下ですら言っているからね」
「王家では、エマ殿と王子の誰か、第三王子を教会から引っ張り出して、エマ殿と結婚させようと考えている貴族が多い」
「もう、婚約はしたくありません」
「だからすぐに結婚。エマ殿の年齢を十五歳に書き換たので問題はなくなったし」
ふざけるなよと私は心の中で叫んだ。
「私は結婚するつもりはありませんから」
「僕も大反対をしている、大聖女国の支援が受けられなくなるからね。エマ殿と第三王子と結婚させたい者たちは、僕が反対するのは、王位が第三王子に行くからだと思っているからお笑いだよ。僕は王位を望んではいない」
「国王になるのはごめんだ。クランツに国王に成れてって言ったら、『俺から自由を奪うな』って言われた。僕だって自由は奪われたくないのにね」
「エマ殿には来年まで事態を静観しておいてほしい」
「結婚のお話がなければ静観いたします」
「僕も頑張るのでお願いする」
「アカデメイアの空き地を農地にする件ですけど」
「不許可だ。祖法は変えられない」
「なぜですか? 祖法より民を救う方が優先ではないのですか?」
「祖法は守る。それが王家にとって絶対の真理だから」
「話し合う余地はないということですね」
「その通りです」
私は王宮を後にしたけど、後方からワイバーンの部隊が私の後をついて来る。護衛という雰囲気はまったくない。第一、いつの間に王家にワイバーンの部隊ができたのか? これはバイエルンとホーエル・バッハに通報しておく必要があると思う。
私はヴァッサの向きを変え、ワイバーン部隊と対峙する。ワイバーン部隊は一気に私との距離を詰めてファイアボルトとウインドカッター、アイスランスを私に向けて放ってきた。
私はワイバーン部隊の中に突撃してワイバーンからエーテルを抜いた。面白いようにワイバーンが羽ばたきができなくなって墜落して行く。下は湖なのでワイバーンは大丈夫だと思う。乗ってる人たちのことは知らない。ヤル以上ヤラレる覚悟は当然持っているはずだから。
アカデメイアに戻ると大聖女国のミーアさんから極秘の手紙が届いていた。新たな難民が大聖女国に多数殺到して来ている。すぐに私に国に戻るようにと書いてあった。
殺到してきている難民をどうするかって尋ねられても、私のポンコツの頭では答えが出ない。ミーアさんは私から軍を動かす許可がほしいのだろう。
第五王子はサーウエストを穀倉地帯に変えろと言った。穀倉地帯にするには人手がいる。サーウエストには手付かずの荒地が多い。
第五王子がうちにきてくれないかなぁ。第五王子がうちにきたら漏れなく母上もついてくるけど。それでも優秀な人材はほしい。
第五王子も王位は望んでいないのだし、祖法で身動きが取れないな王家よりうちの方が断然その才能が発揮出来ると思う。勧誘する価値はある。
私はアカデメイアを出発して大聖女国に向かった。大家さんが「エマちゃん、無理はダメよ」って言ってくれたのがとても嬉しかった。
「軍の使用は許可できません。難民さんたちにはサーウエストの荒地を開墾するように言ってください」




