クルト診療所
クルトさんも医師仮免許所持者なので、大学の実技がない時はクルト診療所に行っては患者を診察している。医師ではないので料金は、他のお医者さんよりかなり安い。私の薬草屋に患者さんたちが持ってくる処方箋を見ると、クルトさんの見立ては確かだと思う。問題は子どもの患者がやたら多いこと。
私は小児科医学は学んでいないので、薬の適量がわからない。処方箋は出す薬は書いてあるけど、分量は書いてない。
私は、食べ物であたったことがあるかとか、どんな暮らしなのかを聞くようにしている。そのため待ち時間が長い。
コゼットさんには子どもたちの相手をしてもらっている。コゼットさんは字が読めるので絵本とかコゼットさんが小さな子どもでもわかるように、聖書の物語を簡単な物語に変えて読んでくれる。本当に助かっているのだけれど、患者じゃない子もかなり混じっている。
最近うちのお店に子どもを置いてお仕事に行くお母さんたちも目立ってきた。毎日子どもたちが増えて行く。自由に食べてと軽食とか置いたらさらに増えてしまった。どうしよう。
「コゼット、あなたのお知り合いで子どもが好きな人はいないかしら。お薬を渡しても子どもたち帰ってくれないから」
「私に文字を教えてくれたメリンダという子がいますけど、彼女は今はお針子としては一流って言われているので、期待しないでください」
数日後、女の子がうちの店にやって来た。
「聖女様はいらっしゃいますか?」
「聖女をさせてもらっています。私はエマです。何かご用でしょうか?」
「私、メリンダって言います。コゼットから聖女様に仕えないかって誘われたので来てみました」
「私としてはコゼットさんの紹介なので、メリンダさんが良ければ私のお付きになってもらいたいですが、私も医学部の学生なので人体解剖とか一緒にやらないといけないので、かなりキツいです」
「うちの近所は脳みそを撒いて死んでる人とか、首がない死体とかよく転がっているので死体は怖くないです。怖いのは生きている人ですね」
メリンダさんもハードな人生を送っている。私の人生って下町の同世代の女の子より遥かに恵まれた環境にいるのがわかった。
「メリンダさん、私のお付きに採用しました。呼び名ですけど、コゼットさんは呼び捨てにしてほしいと言われて呼び捨てにしていますが、メリンダさんはどうしますか?」
「メリンダさんて呼ばれると自分じゃない気分になるので、メリンダでお願いします」
「ではですね。お針子として一流のメリンダがどうして私のお付きになろうと思ったのでしょうか?」
「はい、仕事がありません。仕事がなければお金が入りません。お金を稼げるなら聖女様のお付きでも何でもします」
「お仕事がまったくないのですか?」
「今はドレスよりも食べ物です」
「ドレスを買うお金があれば保存のきく食べ物を買いますね、みんなそうします」
「聖女様の野菜畑はこの辺の人でお世話になっていない人はいないと思います。聖女様の畑だけは実が付きますから、お互い盗り過ぎないように見張りが立っていました」
「私も何度かお芋掘りに行きましたが、聖女様の畑だけはいつも湿っているのが不思議でした」
「もっと不思議なのは枯れた野菜が聖女様が戻られたらまた実を付け出したのにはびっくりです」
「最近は警備の女の子がいるので、誰も盗りに行ってません。女の子だと思って二人の大男がいつも通り野菜を盗みに行って投げ飛ばされたそうです」
ゆきちゃんが畑の警備をしたいというので許可はしたけど、畑泥棒の話は聞いていない。ゆきちゃんには、ほ・れん・そうをするように言っておかないと。
ゆきちゃんはアンデットなので眠る必要がない。ここ最近、私が眠る時にゆきちゃんはいない、起きた時もそう思うとゆきちゃんはいなかった。これはまずい。ずっと畑で見張っている。一睡も眠らない少女の存在は不味すぎる。
「メリンダ、見ての通りうちのお店って子どもたちの遊び場になってしまっているので、私の大学の付き添い以外の時はここで子ども相手をしてほしいの。コゼットだけでは大変過ぎるから」
「具体的には何をしたら良いでしょうか? 聖女様」
「コゼットはあなたから文字を教えてもらったって言っていたから、本が自分で読みたいって子に文字を教えてあげたらどうかしら? 石板とか石筆は用意しておくわ」
「聖女様も本が好き何ですか?」
「私の好みは植物の育て方とか魔道具の作り方とか実用書ばかりだけど。物語は苦手。王子様とお姫様が幸せに暮らしましたって嘘くさいと思うの。結婚後に王子が浮気したり色々あると思うわけ」
私の性格が歪んでいるのは治っていない。




