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エマの下町散策

 バイエルンの下町の方が危ないか。抜き身の剣を振り回してる人がいない分ここは安全かも。バイエルンが変わっているだけかな。置き引きとかかっぱらいはどこでも多い。私を誘拐しようとした勇気ある人もいた。衣装が明らかに貴族のお嬢様だもの。


 私に触れた途端倒れてしまった。何となく私は元気になったので、その人のエーテルを勝手に吸ったみたい。「青い小鳥さんがしたの?」


「いや私は何もしていない。悪意を持ってエマに近寄ったから、その悪意の分のエーテルをエマが吸ったのかも。正当防衛ということかな」



 倒れている人のところに近寄って「大丈夫ですか?」って声をかけたら、その男の人は「死神様、お許しください」と私を拝み出した。エーテルを吸っている私が死神に見えたみたい。


「もう、悪いことはしないと誓うなら今回だけは許してあげるけど」


「私は死神に会ってしまいました。私は生まれ変わりました。今後は死神様に誓って善行を積みます」


「よろしい、今回だけは許してあげる」


「聖女様、あの人この下町の悪党の中でも偉い人なんですけど、まだ聖女様を拝んでいます」


 私の中では死神も聖女もどうでも良くなってきた。私は私なんだから。


 コゼットの雇い主の家に着いた。当然アポイントなしだ。予想通り家の中は大騒ぎになっている。コゼットの雇い主自身がわざわざ出迎えに出てきてくれた。


「大聖女様、突然のご訪問あにがとうございます」と思い切り噛んでいた。


「今回は私のわがままを聞いてくれたお礼に参りました」


「大聖女様、むさ苦しい家ではございますがどうぞ中にお入りください」


 雇い主さんがお茶の用意を家の者に命じたら、颯爽とディアブロさんが現れてテーブルを用意してお茶を淹れてくれた。今日もとっても美味しいお茶だった。


 雇い主さんを見ると目を回して倒れていた。突然家具がなくなって豪華なテーブルが現れて、見た目ちょっとじゃない悪い顔の執事さんが自分の家に現れたらびっくりするよね。


 コゼットさんはとくに驚いているようには見えなかった。


「この方が聖女様のお付きの執事様でディアブロ様なんですよね」


「コゼット、どうして知っているの」

「ゆきさんがメイドの心得を教えてくださいました。お茶については専属の執事様がいるので絶対に淹れないようにと言われていました」


 面倒くさいことに、ディアブロさん以外のお茶は私は飲めない。ゆきちゃんが一度試みてくれたのだけど、ディアブロさんがそのお茶を飲んで一言、「超マズい」と言って以来ゆきちゃんは二度とお茶を淹れようとしなくなった。


 雇い主さんが気が付いた。まだぼんやりしてる。

「コゼットさんの雇い主様、私が帰る時には家具は元の位置に戻りますので安心してくださいませ」


「このテーブル一つで私の家具すべて、二組は買えると思います」


「これは執事のディアブロさんの私物なので差し上げられません」



「雇い主様は私に会いたいとのことでしたが、何か相談ごとでもおありでしょうか?」


「はい、私は大学に白衣を納品しておりましたが、先月よりパタリと注文がなくなりました。私どもの白衣に何か不都合があったのでしょうか? それをお尋ねしたくて」


「白衣には問題はありません。問題なのは大学の方で予算が大幅に削られたとかで、白衣も買えない、治療の器具も買えない、薬も買えない、研究助手さんの給料も支払えない状態になっています」


「そうすると、白衣はいつまでも納品ができないってことですね」


「フス領から多少資金援助はしますけど、これまで通りの数の白衣は売れないと思います」


「うちは廃業しないといけないです。うちは白衣一筋百四十年ですから。白衣以外作れないです」


「コゼットさんのような優秀なお針子がいれば白衣以外の服が作れるのでは?」


「先ず、うちは服飾関係の販路を持っていません。服を作るにしろ注文主がいないと服は作れないです」


「町の人が着てる服は古着ばかりだ、お貴族様とかお金持ちが処分した物を直して着ている」


「町の人には新品の服を着る習慣がない」


 白衣専門店がドレス専門店に早変わりは無理だし、販売品目が一種類だとそれがダメになったダメージが大きいと私も思った。


「小物でも良ければ私の御守りとか作っていただいても良いですけど」


「多少は売れるかもしれません」


「お針子を遊ばしておくわけにも行きませんから、大聖女様が許していただけるのであればエマ様の御守りを作って売ってみます」


「詩作品ができたらコゼットさんに渡してください。私がいつも身に付けておきますから」


「多少は売れるのでは、廃業はその後でもよろしいのでは」

「大聖女様、ありがとうございます」と雇い主さんは涙を流していた。

 私の御守りが売れたら良いなとその時は軽い気持ちだった。

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