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ゆきちゃんの想い

 心臓手術をした男の子は脳にダメージがあったようで右手で上手く物が掴めない。歩行は少し足を引きずるけど問題はなかった。問題は姉が仕事でいないと、安静にしてないといけないのにこっそり外に出ようとすること。


 泣いたりはしない。私は男の子に右手が上手く動かないのなら左手があるさって、右利きの男の子を左利きにしようとしている。


「ゆきちゃんってどうしていつも明るいの」


「私だって泣きたいことも多いんだよ。お父さんもお母さんもいなくなっちゃったし、私が育った村はなくなっちゃったしね」


「泣いたから、野菜が育つわけもないし、お父さんやお母さんが戻って来ることもない」


「だったら私だけでも幸せにならないと、私も含めてみんな不幸ってことになっちゃうじゃない」


「あんたが幸せになれば、お姉さんも幸せなのはわかるよね」


「俺、自分が不幸だと思ったことはないよ!」


「今は姉さんに世話ばかりかけているけど、元気になったら姉さんを楽にさせてあげる」


「私は一人っ子なんでわからないわ。それとも自慢しているのかい、左手でスプーンを握ってこのスープを飲んでみな」


「ゆきちゃんは優しいのか厳しいのかよくわからない」


「どっちも私だよ」


「ゆきちゃん、僕あとどれくらいしたら外に出られるの?」

「私の予定では、薬草摘みに来月からあんたを連れて行くつもりだよ。しっかり働いてね」


「家に帰るのはいつなの?」

「治療費を体で支払うまで帰すわけがないだろう。頑張って働いたら早く帰れるよ」


「無料じゃないの」

「世の中そんなに甘くないし、薬草摘みが終われば熊の世話が待っているので覚悟してほしい」


「熊の世話って」


「あんたみたいな痩せっぽちは熊も食わないから安心してね」


「ゆきちゃんって怖い人だったんだね」

「強い人って言ってほしいね」


 私は男の子、ダン君に「君の治療費は君が働いて返すんだよ」と言ったら「ゆきちゃんの下で薬草摘みとか熊の世話をするからその給料で支払うから、コゼット姉さんは関係ないから」といつの間にやらゆきちゃんとお話ができていたみたい。


「私が聖女様の所に連れて来たのですから、私が治療費を支払います」と言うので「ダン君が自分の治療費だから自分で支払うって言ってるけど」とコゼットさんには答えておいた。


「早く治療費が支払いたいのなら、コゼットさん私のお付きになってほしいのだけど」

「聖女様のお付きなんて」

「ゆきちゃんも単なる村娘なので、しっかり働いてくれるなら何の問題もないの」


「ゆきちゃんがダン君の看病兼薬師としての家庭教師をしているので、私は大学ではお付きなしでいるので、学部長がうるさい」


「コゼットさんにはキツいかもだけど、医学部の助手って遺体の解剖とかも手伝わないといけないし」


「聖女様、私そういうのは慣れてます。私が生まれたところは喧嘩が絶えませんでしたから、お腹から何か管が出てるとか日常的に見ていました」


 コゼットさんもなかなかハードな生活を送っている。合格だ。


 コゼットさんもすぐにはお針子をやめられないので、今週いっぱいはお針子の仕事を続けることになった。私も今週いっぱい学部長の嫌味に耐えれば良くなった。


「聖女様、私の雇い主が聖女様に会いたいと言っているのですがどういたしましょう?」


「その雇い主さんて服屋さんだよね」

「お医者様が多いので白衣専門のお店なので婦人向けのドレスとかは扱っていませんので、聖女様とは縁遠いかと」


「私もヒノモトでは医家、ユータリアでは医者見習いだから白衣は憧れだったりする」


「雇い主さんに優秀なお針子さんを引き抜いてごめんなさいって言いたいし会いに行きましょうか?」


「聖女様が下町に行かれるのですか?」


「ダメかしら」


「ダメではありませんけど、お貴族様が行かれるところではないので」


「私、アカデメイアに来てからそこそこなるけど、下宿と大学の往復しかしていないの」


「コゼットさん、下町を案内してくれるかなぁ」


「聖女様が見て気分の良いところではないかと、お昼からお酒を飲んでウダウダ言ってる人ととか喧嘩をして血だらけになっている人とか、荒っぽいところです」


「私、そういうの慣れているから問題ないです」


「そこまでおっしゃるのなら。お針子の雇い主の家に行ってから下町を案内いたします。それと私は聖女様の使用人になるのでコゼットとお呼びください」


「了解です。コゼット」

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