アカデメイアに帰還
母上から王家を支えるように手紙がバイエルンに来たそうだ。エリザベートはその天使の笑顔で王宮内で人気者になっている。手紙の内容のほとんどがエリザベートの賛美だったらしい。
最後に王家の軍制改革は軌道に乗ったので、バイエルンも王家に逆らうとタダでは済まさないと書くのは母上らしいと思う。
王家が調子に乗ってバイエルンに攻め込んだら自動的にうちと戦争になる。本当にやめてほしい。
王家から使者が来た。なぜか上から目線で王家の統治する土地に雨を降らせろと言ってきた。王家がバイエルンに命じてうちを討伐した命令はきれいに忘れたらしい。
使者さんもミーアさんを初めに大聖女国の役人からの射抜くような視線に、負けずに頑張ったと思う。顔色は蒼白だった。国王陛下からの命令書を代読しただけなのはよくわかる。
「使者様、我が国と王家は戦争状態だと思いますが?」
「国王陛下はここはフス領だとおっしゃられている。そなたはフス領の領主で国王陛下の臣下だとおっしゃられていた」
都合が良く記憶が改竄されたのかな。
「フス領とバイエルン領の争いに王家は無関係だともおっしゃられている」
「バイエルン領は自立したと聞きましたが?」
「姫君を二人も王家に差し出したバイエルンが自立するはずがない。デマだ」
「国王陛下より、雨を降らせた後はエマにアカデメイアで学ぶことを許されるとの有り難い申し出であるので、謹んで受ける入れるように」
使者さん、目が完全に泳いでいる。この使者さんを殺しても誰も文句は言わないと思う。敵地に単身乗り込んできた勇気に拍手をしたい。
「ミーアさん、王家が統治している所にも雨を降らそうと思っているのだけれど?」
「聖女様の思うようになさるのが良いと思います」
「私のことをお人好しだと思う?」
「聖女様が民を見捨てるわけがないと思っております」
いや、見捨てることもあるよ。私は聖女じゃないから。ただ、王家の統治している土地に住んでいるから、雨は降らさなくても良いとは思わない。私ができることで助けられるなら助けたいもの。
「それじゃあ、ゆきちゃんと一緒に巡業に行ってきますね」
「お気をつけて聖女様。敵地ですから」
「承知しました」
「はい、わかっています」
王家の統治領で雨を降らしたが、そこには人は住んでいなかった。かなり前に放棄された畑に雨を降らせてどうするつもりなのだろう。
「ゆきちゃんこのあたりには人はいますか?」
「誰もいませんね」
王家の担当者は現地を見ることなく適当に雨を降らせる場所を指定したのがよくわかった。ということで、王家の指示書は無視をして人がいる地域を重点的に雨を降らせた。王家から何も言って来なかった。確認もしていないみたいだ。いい加減だよな。だから傾いて行くのだと思う。
アカデメイアに戻って大家さんにまずはご挨拶をした。
「エマちゃんはまだ小さいのに本当に大変なお役目だわ。本当に大変ね。疲れたでしょう」
「ゆきちゃんは、どこに行くのお茶でも飲んでからにしたら」
「大家さん、すみません。畑が気になるので見てきます」
「エマ君、薬草屋の話だけど、僕の人柄で決めるって言っていたけど、どう思っているのか聞きたい。二、三軒良い物件が見つけたので、契約がしたいんだけど」
「学部長にクルトさんの評判を聞きましたが、良くないですね。先輩方にも聞きましたが、遅刻の常習犯で、約束してもすぐに忘れるとか最悪でした。先輩のみなさんからは面倒ごとに巻き込まれるので断るように言われました」
「意外です。グラシムでの印象とかなり違っていたので。グラシムでは私たち以外にもこっそり診察していた医者がいると聞いていました。その特徴がクルトさんにピッタリだった」
「私としては、クルトさんの医者としての腕を信じてみたいですけど。とりあえず一年間契約で良ければ名義をお貸ししますが、大聖女国と王家がさらに対立するとグルトさんも痛い目に会うかもしれないですよ」
「王家と大聖女国が一戦交えるなら僕は喜んで軍医として大聖女国に参加するよ」




