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サーウエスト領

「サーウエストに行政官の人を派遣できないかしら、第五王子からのお願いもあるけど、あそこから流れて来る人が多いし」


「サーウエストの人の気風は峻烈しゅんれつ、激しいですから、外から来た人間の指示には従わないと思います」


 要は喧嘩が大好きな土地なんだよね。私が行こうか? サーウエストで雨乞いの舞をしたこともないし。


「私、サーウエストに行ってきます」

「雨乞いはしないようにお願いします。一ヶ所だけタダにすると後々大変ですから」


「承知しました」ミーアさんは私の考えを読んでいる。私の考えなんてすぐにわかるか。


「ゆきちゃん、巡業じゃないけど、旅に行くよ」


 サーウエストに私たちはやって来た。何もない。村も街もない。領主がいたと思われる館は黒焦げだった。この場所には住めない。私たちが、あなたたちの領に戻れと言ってもここには戻れない。


「ここって水がないわけじゃないですよね」


「ゆきちゃん、わかるの」


「あそこの高い山があるじゃないですか。雪が残っているのが見えるでしょう」


「たぶん、泉か何かがあると思んです」


 私は水の精霊さんたちに尋ねた、「この辺りに泉はありますか」と、「かなり山に入らないといけないけど湧水が湧いている所があるので案内するわ」と精霊さんたちが応えた。


 ゆきちゃんと私はヴァッサは使わずに歩いて湧水のところに行った。動物の死骸が多い。水はあっても植物が食べ尽くされていた。水があるから人が住んでいるかもと思ったのは甘かったかもしれない。


 湧水を飲んでみた。「ゆきちゃんこのお水美味しいよ」


「あのうゆきちゃん、矢が刺さっているけど」私が気付かないほど静かに矢が射られていた。

 矢は見事にゆきちゃんの心臓を射抜いていた。


「ついさっきです。あそこの岩陰から矢を放ってきました、捕まえてきます」ゆきちゃんは心臓に矢が刺さったまま駆け出した。


 男の子がナイフでゆきちゃんを刺しているのだけど、ナイフで刺しても傷口がすぐに治るので、男の子は驚いていた。近寄るなあって叫ぶのがやっとだ。でも男の子はパニックにはなってはいない。逃げ道を必死に探っている。なかなか度胸のある男の子だ。


 男の子の必死の抵抗もゆきちゃんには通じず、捕まえられた。で、ゆきちゃんはそのまま男の子をこちらに放り投げた。

 さすがゆきちゃん、男の子の対応は私に丸投げですか。


 男の子は気を失っていた。気付け薬を嗅がせた。

「お前たち、湧水は絶対に渡さない。僕が生命を懸けて守る」


「私たちはお水には困ってないの。大聖女国には雨が振るから」

「水に困ってないって嘘だ! 雨が降る国ってなんでだよ!」


「お金さえ払えば雨が降るわけで」


「世の中、金さえあれば何でもありか。やっぱり盗賊になるしかないのか」


「私たちはサーウエスト領で暮らす人たちの力になりたくて大聖女国から来たの」


「大聖女国の聖女って悪魔だという噂だけど、この矢が心臓に刺さったまんまだし」


「忘れてました」ゆきちゃんが心臓に刺さった矢を抜いた。傷口はみるみる消えていった。


「お前たちは悪魔なのか、いったい何を俺たちにするつもりなのか? 俺たちを喰っても骨ばかりで美味しくないぞ」


 私たちはグールじゃないし。


「ゆきちゃん、この子以外に近くに人はいるかしら?」


「二人、あそこに隠れています。それとここから二キロメール離れたところに洞窟があって十人程度います」


「やっぱり悪魔だ、お仕舞いだ!」


 風魔法で監視役の二人を捕らえた。三人をフローティングボードに乗せて洞窟に向かった。

 一人の女性が私たちを出迎えた。


「旅のお方、私はフィンヤと言います。私どもに何かご用でしょうか? 食べ物はあまりありませんが、多少はお譲りいたします」


「私はエマ、彼女はゆきです。食べ物には困っていません。もしアワとヒエで良ければ、友好の証として差し上げたいのですが」


 ゆきちゃんが背負った袋からアワ一袋とヒエ一袋をフィンヤさんに渡した。少しフィンヤさんの緊張が解けたみたい。


「ここの他に集落はありますか?」


「わかりません、私たちは誰にも見つからないように暮らしてきましたから」


「フィンヤさんがここのおさですよね?」

「そうなりますか」


「では、聖女エマの名の下にあなたをサーウエスト領の領主に任命します」

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