エマの婚約話、今度は第二王子
第二王子から私に会いたいと言ってきた。命令だそうだ。王位継承権は第五王子が第一位で第二王子は第二位のはず。第五王子はお后様が母親で第二王子は第二夫人の息子だったりする。
第一王子が戦死したので、第一王子派が第二王子に鞍替えしたらしい。このまま第五王子が国王になると冷や飯を食べるのが決定するので、第一王子派が足掻いているように見える。
「エマ、よく来た。わかっていると思うが、私と婚約をするように命令する」
「お断りいたします。私は第一王子様の婚約者でした。第一王子様が戦死されたら次は第二王子に乗り換えたなどと言われたくはございません」
「俺の命令が聞けぬというのか」
「はい」
「ただで済むと思うなよ」
「はい、覚悟の上でございます」
第二王子の取り巻きが必死になって第二王子の機嫌を取っていた。
私がさっさと退室したら、取り巻きの貴族が飛んできて、第二王子がお詫びを言うのでしばらく待ってほしいと私のスカートに縋りついてきた。
「私は現在喪中でございますので、婚約などのお話はお断りいたします、では失礼いたします」
とっとと王宮を後にした。後で聞いた話では第二王子は取り巻きの貴族に私を捕まえて牢に入れろと命令したみたい。
誰も私を捕まえには来なかったので、第二王子の命令は取り巻きにも無視されたよう。
私と婚約しても王位継承権は第五王子よりも下なのに。この分で行くと第五王子の暗殺もあり得るかもしれない。バイエルンにその危険性を通報しておいた。
第五王子側が第二王子を除こうとする動きがその後強まったと聞く。そうした動きもあってか、二度目の呼び出しはとても低姿勢だった。
「前回は色々別件でイライラしており申し訳なかった。エマ殿の立場も考えず勝手なことを言った」
「私はまったく気にしておりませんから、王子様が謝罪される必要はございません」
「前回の非礼本当に申し訳なかった。ところで婚約の話はエマ殿の喪が明けたらで良いのだが、今回、依頼したいのはフス領の兵士を借りたいのだ」
「王宮にフス領の兵士など入れるのは問題かと思いますけれども」
「第五王子はバイエルンの兵士に常に護衛されているので問題ない」
第二王子はバイエルンの兵士に殺されるのを恐れている。ではなぜ取り巻きの貴族の兵士を借りないのか? なぜフス領の兵士の護衛だと安心なのか?
「第二王子様に兵士をお貸しするのは良いのですが、何人程度必要なのでしょうか?」
「二十人はほしい」
二十人って多過ぎないか、第一、本来第二王子を警護している近衛の兵士の面子が丸潰れだと思う。側で警護に当たっている近衛の兵士が苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「わかりました。フス領の兵士二十人をお貸しいたします」
「有り難い。エマ殿」
私はハーベスト准将にお願いして逃げ足の速い兵士を二十人選んでもらって王宮に派遣した。その兵士たちには私が直々に面倒事に巻き込まれたら即座にフス領に逃げるように。それと第二王子を決して暗殺しないようにと厳命しておいた。
王家の争いに巻き込まれたくはない。
不幸は重なるもののようで第二王子が体調を突然崩されてそのまま亡くなられてしまった。取り巻きに毒を盛られたらしいと噂になっていた。
第三王子は身の危険を感じたようで教会に入られ王位継承権を放棄された。次期国王は第五王子に決まった。第四王子は近衛の師団長に任命され王家直轄軍の軍制改革を始めた。
第五王子と第四王子は母親は違うが歳が近いこともあってとても仲が良いらしい。このままでは王家がバイエルンに取り込まれるとの思いが二人にはあると言う話も聞く。
第二王子が亡くなると第五王子を警護していたバイエルンの兵士は王宮を出された。もちろん第二王子が亡くなった時点でフス領の兵士は王宮を出ている。
私の婚約者になるとすぐに亡くなるという噂が流れて、私は生涯独身だろうなと九歳の私は悟ってしまった。もうすぐ十歳になるけど、中身が間もなく二十歳の私には堪たえる噂だ。
ハンス学部長から極秘で依頼があった。亡くなった第二王子をリザレクションの実験台にできないかというものだった。即座にお断りをした。やるならハンス学部長ご自身でお願いしましと返信したら、百歳も歳を取りたくないと返事が返って来た。私なら良いのか!




