待ちくたびれた精霊の王
エマが水の精霊に連れ去られてから一週間が経った。エマは戻って来られるのだろうか? 精霊にとって人種の一年とかは一日程度なのだ。
私が精霊の王にされたのは私がいつものように精霊界を飛んでいたら、引き寄せられるようにして、ユグドラシル様の肩にとまらされた。自らとまったわけではない。他の精霊から見たら自分から精霊の王に成りたくて、ユグドラシル様の肩にとまったように見えただろうけど。
私にはユグドラシル様がなぜ私を精霊の王にしたのか未だにわからない。私は精霊の王になってからは、どの精霊も私を避けるようになってしまった。仕方ないのでユグドラシル様の元で過ごすことが多くなった。
「精霊の王様、これからは私たちがこの子を守護するから王様はユグドラシル様の所に戻れば良いわよ」
「それはできない。ユグドラシル様から命じられたお役目を放棄できるわけがない」
「そういう律義さは認めてあげるわね」
「でも、私たちの邪魔とかしたらタダではすまないからね」
「承知した」
「青い小鳥さん、なんと言って良いかわからないですけど、大変ですね」
「エマ、それをわかってもらえるだけで私はとても嬉しい」
臣下に脅される王様って最悪だ。王様というあだ名とでもいう方が良いのかもしれないな。青い小鳥さんてもの凄く運が悪いのかもしれない。まあ、私も肩書きは凄いけど、実力が伴っていない。似たもの同士なのかもしれない。
水の精霊さんの協力で雨乞いの舞を舞えば必ず雨が降るようになった。体力も魔力も精神力も以前ほど削られなくなった。
ミーアさんに、雨乞い依頼の領主に雨乞いに来て欲しければ金貨五十枚前金で支払え、雨が降ったら後から金貨五十枚支払うよう言ってもらうことにした。
海水を真水に変える実験設備を造るのにお金が必要なの。お陰で守銭奴の大聖女と呼ばれるようになった。私としては守銭奴だけで十分なのだけど。私には大聖女の肩書きは重すぎる。
私とゆきちゃんはアカデメイアには戻らず各地で雨乞いをしている。一回舞うと三日は休まないと私の体が持たない。スケジュール管理はゆきちゃんにやってもらっている。
後払いの金貨五十枚をケチった領には行かないことにした。踏み倒す領主が多過ぎる。どうしても雨乞いをして欲しいのなら前金で金貨二百枚支払えと言っている。最近私の評判は極悪守銭奴に落ち着いた。私の気分も落ち着いた。
「エマさん、このままだと半年先まで巡業が続いてしまいます。一度巡業をお休みしてアカデメイアに戻りたいです。畑が心配です」
「私とゆきちゃんの間では、雨乞いは旅周りの興行という気分になっている」
「そうだね。一度アカデメイアに私も戻らないと私も出席日数不足で留年決定だし」
急ぎならゆきちゃんと私がヴァッサで急行すれば良いだけだし、もちろん、特急料金が付くけど、私にはお金がいるのだから文句は言わせない。働いた分きっちりもらわないと。
直近の私の評判は極悪悪魔守銭奴に出世したらしい。そう呼ばれる方が私として気持ちが楽だ。私って善よりも悪よりだと思っているから。
ハンス学部長に大学に戻ったことを報告に行った。
「エマ、お疲れ様でした。その後も色々あったみたいだけど、君の場合はすべて公欠にしてあるから留年の心配はしなくて良いよ」
「ありがとうございます。出席日数が足りなくなるのが心配でした」
「君の場合、野戦病院は王命だし、雨を降らすのは公務認定されているから」
「王家からその代わり、王家直轄領は無料で雨を優先的に降らせてほしいそうだ」
出席日数をお金で買った気分になった。
「そういうことなので王家からの依頼は受けてあげてください」
「承知しました。ハンス学部長」
「この前話しをしたリザレクションの資料を読んでおいてほしい」
「ハンス学部長、死者蘇生は禁忌だと聞きました」
「実際に死者を蘇生させると、術者はタダではすまないと言われているけど、まだ誰もやったことがないのに、どうしてわかるのか不思議なんですよ。僕は」
「まあ君はできても止められるだろうけど、お目付役に精霊の王がくっついているから」
「ハンス学部長はエルフなのですか?」
「僕ね、エルフって嫌いなんだよ。特権意識が高くて、神に選ばれた民の意識が強すぎる」
「だから、人種が死者を蘇生することができると、エルフにさえできないのだから、エルフの優位性は揺らぐ」
「エミル様が人種の君を精霊に選んだ時点でかなり動揺している。僕は嬉しくて仕方ないんだよ」




