スライムの養殖
このスライムを海水と同じ塩辛さの塩水につけた。一日経過後の上澄を少しすくって我慢して口にした。塩水だ。
二日経過後の上澄みを口にふくんだ。昨日よりは薄いかも。
七日目、水だと思う。塩辛さがない。念のため熱してみたけど塩は残っていなかった。
問題は増やした後だった。私はスライムを活性化させた。すぐに分裂が起こって二匹のスライムが生まれた途端に共喰いを始めた。厄介だ。スライムとスライムの間に板で仕切ったけど互いに溶解液を出して板を溶かそうとする。
縄張りがあるのかも、十センチ離してみた。ダメだ共喰いが始まった。十五センチこれもダメ。二十センチモゾモゾしてる二十センチ以内にスライムが入ると共喰いモードに入るみたい。
今、二十匹のスライムが前後左右二十五センチ離してその間をガラスの板で仕切った容器に入れて飼育している。これって実用化できるかな。もの凄く広い場所が必要になる。
塩水を水に変えたけれども私は毒への耐性があるので、普通の人が飲んでも大丈夫なのだろうか? 心配だ。
「大聖女様、ダイキチなる見るからに怪しい者が大聖女様の教師だと言って面会を求めてきております。すぐに処刑いたしましょうか?」
「やめて下さい。ダイキチさんは私の家庭教師です」ミーアさんは相変わらず過激だ。
「ダイキチさん、ちょうど良かった。実験に協力してほしいの」
「実験に協力って何をするんだ?」
「スライムを塩水に七日間つけた後の水を飲んでほしいの。私って人より毒への耐性が強いので、普通の人が飲んで大丈夫か調べたいの」
「それって実験台になれってことだよな、人体実験てやつだ」
「濾過はしてあるから」
「了解した。飲んでやるよ。俺は天涯孤独の身だからよ。泣く奴はいねえし」
「そこまで深刻な実験ではないから」
ダイキチさんは快く飲んでくれた。
「ただの水だ」
一時間が過ぎた。「何か気持ちが悪いとか、お腹が緩いとかないですか?」
「何ともないなあ」
「一日経過観察させてもらいますね、で、ダイキチさんは何のご用でここに来たの?」
「大聖女国の国境を封鎖するって聞いたのでやって来た」
来月の一日付けで国境を封鎖をすると発表してから、大聖女国に入国する人が増えた。国境封鎖後でも大聖女国から出国するのは簡単にできる。封鎖後は入国はできないだけ。
昔から他領は、領から領民が無断で他領に行ったら領主への反逆になっている。他領ではその取り締まりが強化されていると聞いた。
「大聖女国でも水不足が深刻です。他領の領民までは手が回りません」
「エマの故郷のバイエルンも早くから水を氷に変えて氷室で保存したり、水不足対策を取っていた。そのバイエルンも国境封鎖に踏み切った」
「大聖女国やバイエルン以外の領民は食うものはない、あってもびっくりするような高値で買えない。井戸水の割り当ては決まっていて、この真夏のさなか井戸水を汲む順番待ちで一日が終わる」
「その頼りの井戸も枯れ始めている」
「どこもかも晴天続きで雨が一滴も降らないのに、ここだけは降る」
「聖女の祈りを神々が聞き届けて雨を降らしていると聞く、なのに他領の領民は救わないってなぜだ?」
「このままでは、バイエルンと大聖女国以外の領の多くの領民は乾きで間違いなく死ぬ」
「それで良いのかって話をしようと思って来たのだが、スライムを使っての真水作りはいけそうか?」
「時間とお金がかかります。それをクリアしても問題があります。大聖女国にもバイエルンにも海がないことです」
「海がなければ海水から真水が作れないのです」
「海が近い領はホーエル・バッハか」
「はい、私もホーエル・バッハで海水を真水に変えてこちらに持って来るのが現実的だと思っていますが」
「王家か?」
「王家です。反逆者の領から水を送られても感謝はせず、計画性のない王家のことですから、水を無駄に使って、庶民には回さないと思っています」
「王家を倒すか?」
「それは反対です。この国は内乱で傷ついています。それなのにまた争うのは愚かなことです」
「それにスライムによる真水作りは来年の旱魃対策で今年は間に合いません」
「最初の話に戻るが、他領の領民は見捨てるのか?」
「見捨てたくはありません。でも助けられないのです」
「エマ、少し話がある。その男がいると邪魔だ」
「ダイキチさん、体調を見るので別室で休んでいてくださいませ」私の両眼から涙が溢れていた。ダイキチさんはそれを見て黙って別室に行ってくれた」




