海水を真水に変えるスライム
このスライムは岩塩のある洞窟に好んで生息している。日光に当たると数分で死滅する。この論文の著者はハンス学部長だった。
私はこの本を持って学部長室を訪ねた。ハンス学部長は私の持っている本を見てすべてがわかったみたい。
「エマ君もこれで水不足は解消だと思ったはず」
「はい、このスライムで水不足は解消します」
「この塩を食べるスライムの最大の欠点は増えないこと。分裂するのがもの凄く遅いので、水不足を解消させるだけの数がそろえられない」
私ならなんとかできるかもしれない。
「それでもやってみたいです。このスライムはどこにいるのですか?」
「この国の南の端のヨルムンガルドという洞窟にいるよ。本にも書いたけれども日光に当たるとすぐに死ぬから」
「ありがとうございます。ハンス学部長」
「エマ君、君って精霊だよね、人間には見えないのだけど、そして君の肩に乗っているのは精霊の王かな」
「青い小鳥さんて精霊の王様なの」
「ユグドラシル様がそう決めたのでそうなっただけ、成り行きだ。実力なら私より上の精霊はいくらでもいる」
「エマ君、君、リザレクションできる?」
「リザレクションってなんですか?」
「死者を生き返らせることかな」
私、ゆきちゃんをアンデットとして蘇らせたけど、死者を生き返らせたことはない。
「死者を生き返らせたことはありません」
「ゆきちゃんっていうメイドさんだけど、あの娘人間ではないよね」
「ゆきちゃんは色々事情がありましてアンデットですが、とっても良いアンデットです」
「エマ君ならリザレクションができるかもしれない。一度調べてみてほしいな」
「僕もスライムの情報を提供したわけだし」
「承知しました。それと私を呼ぶのはエマでお願いします」
「そうだったね。精霊の君を見たら呼び捨てにはできないって思ったもので」
「私、ヨルムンガルドに行って来ます。ちょうど夜ですし都合が良いです」
「スライムの特徴だけど魔核の色が黄金ぽい色をしている、光には弱いからそこも気をつけて、ちょっと待ってね、この遮光ビーカーに入れてこの蓋をすると良いよ」
「では、エマ、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます。ハンス学部長」と言って窓から飛び出してしまった。しくじった。
飛び出したものの南ってどっちだろう。今日は月も出ていないし方角がわからない。
「南は左側だ。そのまま進め。近づけば私がヨルムンガルドの場所を教える、あのハンスという者は人種ではない。私は以前彼に会ったことがある。彼はエルフだと思う」
「人種には私は見えないからな」
「あのう、エルフさんてみんな笹耳ではないのですか?」
「稀に人種と同じ耳の子が生まれる」
「エルフは排他的な種族だから、ユグドラシル様に相談にきた。私はその時に彼に会った」
「ユグドラシル君はなんと答えたのでしょうか?」
「確か、『世界はここだけじゃないよ』だったかな。エマ、そろそろエルムンガルド近い。ゆっくり飛べ」
「あそこに洞窟があります。入ってみます」
外れかなあ、コウモリはたくさんいたけど、スライムは一匹もいない。通路は幾つも枝分かれがしていた。私は魔物の気配が強い方向に進んでみた。やたらメッタリックな大蛇がいた。
ウインドミルでミンチにしても小さなメタリック蛇になるだけ。面倒くさいので大穴を開けて小蛇たちを埋めた。しばらくは出て来ないだろう。
そのまま進むとスライムがいた。魔核が黄金ぽい色のスライムは見つからない。シールドにくっついて前が見えない。シールドに炎をまとわすとやって離れた。シールドがベトベトだ。シールドを張り直して炎をまとわせた。
「エマ、魔核が黄金ぽい色スライムは光を嫌うのではなかったのか」
「ありがとうございます、忘れてました」
炎を消して目を暗闇に慣れさせた。ぼんやり光るスライムが見えた。光に惹かれた別の種類のスライムを捕食している。魔核が黄金ぽい色だ。ハンス学部長からもらったビーカーに入れた。他に三匹見つけたので、同じビーカーに入れて蓋を閉めて洞窟を出て大聖女国に戻った。
私の部屋に暗室を作って、ビーカーの蓋を開けたら四匹入れたビーカーには一匹のスライムが入っているだけ。このスライムって同種類のスライムでも捕食するんだ。飼育が難しい。




