グラシムの街その2
男の人の妻は無事回復したのは良いのだけど、私のテントにグラシムで体調の悪い人が集まってきてしまった。
困った私はグラシムのお医者様にどうしたら良いのかと相談に言ったら、聖女様は薬草を持ってきていると伺っているので、それを渡すくらいなら良いのではと言ってくれた。この街には薬がまったくないので、医者としては瀉血程度しかできない。お医者様も困っていた。
「お医者様、テント内の薬草は私のものではあるのですが、あそこにあると王家のもの扱いになりますの」
「私の家の隣が空き家です。聖女様と薬草はそこに移られて、私が処方箋を書きますので、それに合った薬草を患者さんに渡せば良いと思います。薬草の代金は処方箋の代金に含めておきますね。で、当日精算するというのではいかがでしょう」
「それでけっこうです」
私はお医者さんの隣に「聖女の薬草屋」を開店してお医者様ともども儲けを出した。私は成り行きで聖女になったので、儲け話には必ず乗ります。
「エマさん、ここに来て一月が経ちましたけど、テントを張る兵士は来ないし、残っていた医師団の人たちもみんな帰って行きましたよ、どうするんですか?」
「そうね、広場に一つだけ私たちのテントがあるだけですね」
ユリウスさんがこちらに向かって走って来た。
「聖女様、戦争が終わりました」
「戦争があったのに傷ついた兵士は誰一人ここに来ませんでしたよ」
「戦闘がありませんでしたから、あっ戦死者が一名がおられました。第一王子様が黒い甲冑を来た騎士に討ち取られたそうです。総指揮官が討たれたので王家の軍はホーエル・バッハの軍と戦うことなく撤退しました」
第一王子の尊い犠牲で戦闘が回避できて良かったと思う。第一王子も自分の名声を上げようとした行為が自分の死を早める行為になるとは思わなかっただろうけど。
私は「聖女の薬草屋」でそこそこ儲かったのでグラシムまで来たことで文句はない。お医者様からここに住んだらって散々言われた。隣の空き家はお医者様が買ったそうなので、グラシムに来たら必ずお店を開けてほしいと言われている。
グラシムではちゃんと馬と荷馬車を購入して御者はゆきちゃんがして資材と薬草の間に私が乗ってアカデメイアに向けて出発した。
馬は、休ませないといけない。来る時より時間がかかったのと、夜盗に頻発に襲われては野盗をそのたび捕縛した。服を見ると王家連合の兵士の服を着ていた。
逃亡兵が私やゆきちゃんに敵うはずもない。困った事にどこの町も引き取ってはくれない。仕方ないので、「フス領の兵士に成りたい人はここに残って下さい。なりたくない人は自由にしてください」と言ったところみんな残ってしまった。
五十人ほど兵士を採用してしまった。ミーアさんに謝らないと。行き先をアカデメイアから大聖者国に行き先を変更して、五十人ほどの護衛を引き連れて荷馬車は進んだ。
私たちの護衛になった元王家連合軍のみんなさんに戦争の様子を尋ねた。
「聖女様、先頭はフス領の兵士が進軍し、次にバイエルンの兵士で、その次が我々でした。もう間も無く、ホーエル・バッハ軍と接触かと思っていましたら、最後尾の近衛兵団が大混乱になっていました」
「そうなんです。最後尾の近衛兵団に奇襲がかけられました」
「実際に我々が見たわけではないのですが、黒い大きな狼に乗った、黒い甲冑を着た騎士たった一人で数百人の近衛兵団に奇襲をかけて、近衛でも名のある騎士を打ち払い、王子を槍でグサリと突いてあっと言う間に討ち取ったそうです」
「王子を討ち取った途端に狼もその黒い甲冑を着た騎士はいなくなったと聞きました」
ディアブロさんだ。戦争が始まるのを待っていたものね。タイミング的にはフス領の兵士が寝返る前のタイミングでベストだと思う。さすができる執事は仕事が違う。
ヘヴィモスさんもそうだけど、ディアブロさんにもいつもお世話になっているので何かお礼の品をあげないといけないと思う。
二人とも欲しいのは珍しい茶葉だとわかっている。時間を作ってヴァッサで世界中珍しい茶葉探しにでも出かけようかなと思う。




