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グラシムの街

 うう、目立っている。大量の医療資材と薬を積んだ荷車を女の子が一人で引っ張っているのだから当然目立つ。それにその女の子は楽しそうに歌を歌っているのだから。


 ケチらずに馬で荷車を引いた方が良かった。視線が痛い。荷車を引いている女の子を見て、荷車に乗っている私をみんなが見ている。


「あれは大聖女様と怪力のお供の方だ」と言われている。もう手でも振って愛想を振りまこう。みんなさん、平伏しなくても良いですよ。


 グラシムの街に着いた私の顔は真っ赤になっていた。荷車も引いていないのに。ゆきちゃんが心配して「エマさん、風邪でも引きましたか? お顔をが真っ赤ですよ」


「お水が飲みたいだけだから」


「お水よりお茶がよろしいですよ」とディアブロさんがとっても楽しそうに現れた。


 私とゆきちゃんはディアブロさんが淹れてくれたお茶で一息を入れた。お茶を飲んでいるとグラシムの町の町長さんだろうか? こちらにやって来た。


「あなた方はお医者様関係の方でしょうか?」


「はい、王命によりグラシムに行くように言われました」


「私は皆さまをテントの設営地まで案内するように言われたユリウスと申します」


「私について来てください。テントの設営予定地にご案内いたします」


「ありがとうございます」なんか引っかかるけど。


 ユリウスさんの後について行くと何もない広場があった。


「ユリウス様、テントはどちらにあるのでしょうか?」


「ここは元々畑でして王命により整地の兵士は来ましたが、設営の兵士もテントもまだ来ておりません」


「既に何人かのお医者様が来られましたが、この様子を見て帰られました。テントの設営が出来たら呼ぶようにと言われております」


 畑を潰して野戦病院の設営は放置ってあり得ない。この段取りの悪さは誰の責任だろうか?


「私は一応テントも持参して来ましたので勝手にテントを張らしてもらいます」


 仕方ないので大きめの帆布を一枚を地面に敷いて、もう一枚を廃材をユリウスさんからもらって加工して支柱にして簡易テントを張った。


 夜になったらヴァッサでフス領まで戻ってちゃんとしたテントを持って来よう。


 私たちの後から来た医師団の人たちは怒って帰る人もいれば、私が貸出したテントを自分たちで張って残る人もいる。それぞれの判断で動いていた。


 もう一人の下宿人さんは怒って帰ったのだろうか? 誰も私には話しかけて来ない。


「ゆきちゃん、暇だね」

「エマさん、暇ですね」


「エマさん、戦争っていつ始まるのですか?」


「ゆきちゃん、私聞いてないの」

「エマさん、戦争が始まるまで私たちこのままなんでしょうか? 畑に苗を植えたいのでさっさと終わってほしいです」


「うん、そうだね、早くアカデメイアに戻りたいね」


「ここは聖女様のテントでしょうか?」


「はい、私のテントですが、何か?」


「妻の体調が悪いので往診してもらえないかと思いまして」



「私は医者ではないので病気は治せないのですが、それでもよろしいのでしょうか?」


「この街のお医者様には診てもらいましたが、薬がないとかで何ともできないと言われました」


 戦闘が始まって傷ついた兵士が来れば治療するつもりだったけど、街の人の治療はできない。祈ってあげるだけで良いのかな。



 男の人の後に私と一応色々な症状に対応できる薬草を持ったゆきちゃんと二人で向かった。


 女性が高熱を出して寝ていた。呼吸も荒い。脈も早い。解熱作用のある薬草のエキスを薄い食塩水に混ぜて注射した。口から飲むのは無理そうだったので。


 風邪をこじらせて肺炎になっているように見えるけど。どうだろう。体にケガの痕はないので体に毒素が入ったとは思えない。


 私は男の人の妻の手を握って聖句を唱えながら妻の自然治癒力を高めた。


「もしまた熱が上がったらこの薬草をすり潰したものをお水に入れて、むせないように注意しながら飲ませてあげてくださいませ」


「私ができるのはこの程度です」


「聖女様、妻の熱が下がってきました。ありがとうございます」


「お礼は神様に言ってくださいませ、私の力ではないので」

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