初講義、また内戦
ゆきちゃんと二人で初の講義に出ている。ゆきちゃんには無理して起きておく必要はないと言ってある。講義ノートは私が取るから。他の学生は寝ている。従者は一言一句、教授の言い間違えまで書いている。
私は、教授の語っている医学の基礎知識を学んでいた。困ったことに私は教授の話以上の知識を持っている。未だに各臓器の役割がほとんどわかっていないことに驚いた。私の知識ってもしかしたら最先端なのかも。
人はなぜ病気になるのか、悪戯好きの妖精が離れないから。妖精の嫌いな薬湯で妖精を追い払うと病気は治るそうだ。
私には、魂も精霊も妖精も見えるし感じられのだけれども、人を病気にさせる妖精には会ったことがない。それよりも水や空気の質が悪かったり、傷の処置をしていなくて病気になってしまった人を多く見てきた。
講義中、ほとんどの教授と学生が私をいない者として扱っている。九歳児に何がわかるかみたいな態度が感じられる。
「心臓で人間は考えている。なぜなら魂がそこに宿っているから」魂は心臓には宿ってないし、心臓は血液を送るポンプだよ。考えている所は脳だと私は思っている。だって魂はそこにあるのだから。そう言うことも小さく講義ノートに書いておいた。
私は、イアソーさんから教えてもらった知識を書き留めておこうかと思っている。
試験では教授が教えた通りに答案を書くことにしている。余計なことを書いて卒業できなければ医学部に入学した意味がなくなるから。
卒業して医師にならないとローレンスさんとレクターとの約束が守れないもの。私もけっこうしがらみが多いなあ。
今日の講義はこれでおしまいなので、ゆきちゃんと下宿先に帰ろうとしたら、先輩たちに囲まれた。「特別実習に参加してもらおう。医学部創設以来の伝統実習なので拒否はできない」と言われた。
ゆきちゃんと一緒に先輩たちに囲まれたまま実習室に連れて行かれた。女性の遺体がそこには安置されていた。まず私はその女性の魂が安らかになるよう祈りを捧げた。
「この遺体を解剖してみろ。従者は触ってはいけない。俺たちが医師にお前がなっても良いか判断する」
私はゆきちゃんに解剖用の手袋をポーチから出してもらった。人体には有害なものがその人が死んでも、なおいることが多い。もちろん妖精さんが居残っているわけではない。
ナイフが用意されていたが手入れが不十分で刃こぼれしていたのを風魔法で研いだ。先輩たちの顔が急に引き攣って後退りしている。ヤられるとでも思ったのだろうか? 覚悟もなくよく私を呼び出したものだ。
遺体を開腹し、消化器系臓器の一分、呼吸器系臓器の一部を部位ごと解剖してパレットに並べて再度元あった所に戻して針と糸で縫合して元の状態にほぼ戻した。
「俺たちより上手い」
「解剖学の教授よりもだろう」
「お前、経験者だろう?」
「初めてでございます。私はまだ九歳の女児ですから」
「合格だが、その腕前なら即戦地行きだろうよ。俺たちが推薦しておく」
「私としては基礎医学の知識を学びたいのですけれども」
「お前は基礎医学ではなく臨床をやれ! やるべきだと思う」
ここの人たちって実力を認めてくれると即素直な人たちになるのか? わかりやすい。
「戦地ですか? 内乱は終わったはずですが」
「王家連合軍がホーエル・バッハと戦端を間も無く開く」
馬鹿なの王家は今年と来年は旱魃になるとあれだけ言っておいたのに、第一ホーエル・バッハとバイエルン家は秘密協定を結んでいるから、王家に勝ち目はない。
「第一王子が討伐の総司令官だから、婚約者のお前も当然協力するよな」
第一王子、あなたはどうして死に急ぐのでしょうか? おそらく私の軍団を先陣にするつもりでしょうけど。
私の軍団ってホーエル・バッハの元貴族の軍団ですから即座に寝返って王家の軍を蹂躙する予定です。ごめんなさい。
婚約式は王家がホーエル・バッハと戦端を開いた時点でなくなった。




