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卒業式、それぞれの旅立ち

 卒業生は五名だけだった。入学当初は二百人はいたのに。そうなった責任の大半が私が原因なのは心苦しい。


 答辞はウエルテルがとっても上手く書いてくれたので、読んでいた私まで感動して涙ぐんでしまった。ミカサも涙ぐんでいるし、在校生の女の子たちもハンカチで涙を拭いていた。ウエルテルって作家になる方が良いと思った。


 私は九歳にして王立魔法学校高等部を卒業した。そして王立大学医学部に進学する。

「大学入試試験が中止になったと聞いて心配したぜ」とダイキチさんが寮に来てくれた。医学部の入試が中止になったせいで王家を呪う受験生が現れたらしい。そりゃ恨まれるよ。医学部受験の人って人生を賭けているのだから。



 現在王立魔法学校はバイエルン家の派閥と王家の派閥と中立派の三派閥になった。ホーエル・バッハ系の生徒が全員退学したために、在校生は一年生百人程度二年生はそれより少ないかもしれない。


 ヴィクターとウエルテルは王立大学魔道回路学部魔道具学科に進学する。ニコラはヒーラーの師匠の元で本格的な修行が始まる。マリアは本国の大学の法律学部に進学する。この仲間たちがバラバラになると思うと涙が勝手に出てくる。


 マリアやニコラみたいに大声を出して素直に泣けたらどんなに良いのだろう。私ってどうして我慢してしまうのだろう。自分の性格が恨めしい。


 私の周囲はこれまで通りバイエルン家の派閥の人が取り巻いている。私って追放されたと公表されているのだけれど、誰も信じていないみたい。


 第一王子の婚約者としても発表されているので、王家派閥の人たちも多少混じっている。


 卒業式には父上に来てほしかった。その代わりにハーベスト准将と宰相のミーアさんが参列してくれた。


 フス領は相変わらず大聖女国と呼ばれている。ただし地図上はフス領と記載されている。

 私は、王都に行けばフス領主、フス領に戻ると女王になっている。はっきり言ってどうでも良い。


 私は私なのだから。


 講堂の片隅にかなり怪しい人がいる。よく見ると父上だった。私は父上の側に行きたいのだけど、名目上勘当されてるし、父上に向けてニッコリ微笑んだら、父上が泣き出してかなり目立ってしまった。


 父上のお付きの人が慌てて父上を引き摺って連れて行った。申し訳ないことをしたかも。


 私の晴れ姿を見てもらえて嬉しかった。父上ありがとう。そう言えば私、死に戻って初めての卒業式だった。大学って卒業式ってあるのだろうか? 医学部だけないような気がする。


「そうそう、青い小鳥さん、あなたにはお名前はないのかしら?」


「名前はあるがみんな青い小鳥って呼ぶので、もう名前で呼ばれるのは諦めた」

「お名前で呼ぶかどうかは別にしてお名前を教えてくれませんか?」


「私の名前はマータリンク・フームと言う、意味は測る者と言う意味だ」


「マータリンクさんですか。やはり青い小鳥さんの方が親しみがわきますね」


「エマ、ミカサに注意した方が良いぞ。第一王子のバルスが来た」


「承知しました。暗殺に警戒します」


 ミカサはバルスと親しげに話しをしている。どちらも生粋の王族なので周囲を圧倒している。そのままの状態で私の所には来てほしくない。


「バルス様が卒業式に来られるとは思いませんでした」


「婚約者の晴れ姿を一目見たいと思ったのでね」ミカサの目が鋭くなった。


「私はまだ九歳の子どもです」


「九歳の子どもが王立大学の医学部生とは前代未聞のことだ」


「内乱の影響で入試が中止になりましたから、受験していれば不合格だったかもしれません」


「謙遜も過ぎると嫌味になる。エマ殿。君は内乱の際実際に治療にあたっていたと聞いた」


「私はお手伝いをしただけです。治療はしていません」


「エマ殿は我が国の宝だ」


「バルス王子様、それは私の国でも同じでございます。エマには巫女としての資質がございますから、弟と縁組させたかったです」


 ミカサに弟なんていたかなぁ。いなかったはず。


 これって私の争奪戦が始まった気がする。


「私、同級生と別れの挨拶をして参ります」と私は逃げた。青い小鳥さんが王子が危ないと言ったけれども、危ないのは私だと思った。もうカバンに入れられるのはごめんだ。

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