エミル君の芸術家魂、エマの結婚話
旧魔王城になぜか強力な結界が張られている。魔族の人たちが家に戻れなくて困っていた。
「あっお嬢様はエミル様のご友人ですよね」
エミル君とは何となく気があって友人かもって思った時期もあった。エミル君は神様なので友人とか思うと不敬なのだけど。
「ええ、まあそうかもしれません」
「私たちは魔王城の近くに住んでいるのですが、ああも強力な結界を張られると家に戻れません、結界を張る範囲をもっと狭くするか、弱めてもらうよう、お嬢様から頼んでもらえないでしょうか」
「わかりました。頼んでみます」
この結界って対私用の結界ぽい。時々ピリってするくらいだけど。魔王城に着いたら門前でイアソーさんが平伏してた。
「イアソー様、何をされているのですか。 お立ちくださいませ」
「主人を止められなかった。申し訳ない」
「お芝居がまだ始まっていないのであれば止めるつもりでしたが、既に上演されてしまいました。ただ、お芝居の台本を読みましたが、ほとんど事実ではありませんでした」
「エマ、それはお芝居だから。事実はエマが延々絡みついた魂を鎌で切っただけ」
「まったく面白くも何ともないじゃない、老いた魔法使いが自分を追放した世界に怨みを晴らそうとして、自分の生命をその代償に魔王を復活させた、掴みはバッチリでしょう」
「エミル君、母上は亡くなっていません」
「それに大聖女が聖剣で魔王の脇腹を斬るっておかしくないですか?」
「それはしくじったと思っているけど、お芝居では見せ場になって成功したと思っている」
その後エミル君の芸術への思いがふんだんに語られて私はいつの間にか眠ってしまった。目を覚ましたらエミル君は鬼の形相で、最初から語り始めた。またうつら、うつらとしたら頭から冷水を掛けられた。
「エミル君の芸術への思い十分理解できました。私以外の方を主人公にされる分には文句は申しません」
「そうだ。エミル君、急いで結界を解いて下さいませ。魔族の方々が家に戻れないので」
「それはすまない。すぐに解くよ」
「ええっとそれでだ。バイエルン家はそれぞれ個性的だからエマ以外誰を主人公にしてもそれなりの物語にはなるかもしれない」
「本編を書いて外伝で主人公を変えてみるのも面白いかも」
「バイエルン家から離れて、天界の人たちが苦労の末にこの星にたどり着いたお話とか」
「そう言う苦労話って鬱展開になるじゃないか、僕そう言うのは嫌い」
「天界で思い出した、天界から王都に使者が来て王族と天界と交わした契約を破棄した」
エミル君も強引に話題転換を図るよね。
「それで、王族がパニックになって、第一王子とエマを結婚させるお話が現在進行中です」
「エミル様、誰と誰が結婚するのですか?」
「エマと第一王子」
「エマが王家に入れば魔王退治の勇者が手に入る、バイエルンとの誼も今より深くなるし、国王候補から転落した第一王子が国王になる」
「天界の後ろ盾のない王家なんて弱小貴族でしかないもの。王族も生き残りをかけて必死だ」
これは困った。私は王妃になる気はまったくない。絶対断る。問題はバイエルン家の分家筋だ。王家への絶対的忠誠心の塊だから、この結婚話を断ると養子の父上の立場が危うい。母上がいれば分家など問題ではないのだが、母上は現在私の妹になっている。
「でも、エミル君、第一王子には第一夫人がいたはずです。バイエルン家が私を王子の第二夫人にするのを納得するでしょうか?」
「第一王子の第一夫人は、そのご実家が内乱で没落したので、第二夫人に下げられた、何の問題もなし」
実家が没落したら第一から第二に格下げって問題あり過ぎだろう。
私は今でさえ、成り行きで聖女とか勇者とか、ついには人外の精霊になってるし。形だけの第一夫人ではあってもごめんだよ。
父上と相談役のレクターに相談しないと、私の人生が他人に決まられてしまう。
「エミル君、情報提供ありがとう。今からバイエルンに戻ります」
「自分の人生は自分で決めないとだよね」と楽しそうにエミル君は笑った。




