ルームメイトは不機嫌
「お姉様、最近とても不機嫌そうに見えるのですけど、何かありまして?」
「エマ、私のことはミカサお姉様って呼んでもらえるかしら」
「それは構いませんけど、ミカサお姉様」
何となくだけどミカサが微笑んだ様に見えた。
「ミカサお姉様、どうかされましたの?」
「エマ、あなた周りの女の子たちをお姉様って呼ぶのはなぜかしら」
「エマ研究部の人たちは自分たちのことを名前ではなくお姉様と呼んでほしいと頼まれて、私の周りはお姉様だらけになってしまいました」
「エマ研究部ってそれ何の部活なの?」
「私をずっと観察してエマとは何者かを研究するクラブ活動だと聞きました」
「何それ、ストーカーじゃない気持ち悪い」
「そう言う風にも取れますが、私はボディーガードの皆さんだと思うことにしています。演習に出ると、私を守ってくださいますから」
「演習で盾になってくれているの。けっこう役に立つじゃない」
「演習で注意すべきは後ろから撃ってくる味方だからね」
「その通りです」
ミカサは私より一学年上の生徒なので、本来なら私と同室にはならないはずなんだけれど、ミカサのお家は学校では特別待遇に見える。ミカサは自分のことはほとんど話さないので、私の中では謎の美少女の扱いになっている。ミカサ本人が話すまで、ミカサのことは尋ねないようにしている。
ミカサは、どうも自分以外にお姉様がいるのが嫌だったようだ。一体お姉様ってどう言う意味でこの学校では使われているのだろう。その内調べてみたい。
「ミカサお姉様、私、魔道具回路研究部と言う部を学校に申請しようと思っておりますの」
「エマ、私をその部の部員番号1番にしなさい、2番は絶対に嫌なの、申請書には部員名を書く欄があるから、1番は私ね。分かった」
「分かりました。部員番号1番はミカサお姉様です」
「エマ、大好きよ」
「ミカサお姉様、苦しいデース」
ミカサは見た目は細いので力がない様に見えるけど細マッチョだったりする。ミカサに力いっぱい抱きしめられると息が出来なくなる。かなり危険なお姉様だったりする。
学校に魔道具回路の研究部の申請を出したら即日許可が出た。ただし、校長の呼び出し付きで。
「エマ・フォン・バイエルン参りました」
「入室を許可します、入りなさい」
「エマ、そこにお掛けなさい、言われることは分かっているわね」
「先日の行軍訓練で、先生方の指示に反して勝手な行動を取って申し訳ありませんでした」
「エマ、あなたに罰を与えます。明日から一週間、懲罰室で、これを読んで要約して、私に提出しなさい。お家にはこの件を報告しておきます」
母上の鬼の形相が目に浮かんだ。とっても恐ろしい。帰省時はもう屋敷には戻れないので別荘で生活しよう。下手をすると殺されるかも。家の恥さらしって罵られてから燃やされる。母上の炎魔法はこの国で右に出る者はいないと言われている。私に言わせると魔力量に任せてバカスカ撃ってるだけの火力バカにしか見えない。母上の魔法は派手なので見落としてしまいがちだが、大きな穴が開いていることに私は気づいてしまった。それを言えば絶対に殺されるから誰にも言っていない。
間も無く産まれる天才児の弟なら、それに気付くはず。母上が怒って弟を燃やそうとすれば、燃やされるのは母上だと思っている。
「お家には感謝状も一緒に通知しておくわね。あの灰色熊は変異体だったから、並の魔法使いでは返り討ちにあっていたわ。それへの感謝ね。それとあなたの命令違反は別なの。敵に遭遇した場合、教師は生徒を守って逃がすそれが仕事ですから」
「ミカサお姉様、私、明日から一週間、懲罰室に入ることになりました」
「どうして、あなたが懲罰室に一週間って退学寸前じゃないの」
ミカサに、私が懲罰室に入る経緯を話したら、怒り出した。
「教師たちや生徒たちの生命の恩人を懲罰室に入れるなんて、私の国では考えられない。命令違反を考慮すると戒告処分がやっとかな、私なら口頭注意で感謝状に金一封を付けるわね」
ミカサは外国の王族の人かもしれない。
「ミカサお姉様、どうか校長の所に行くのはおやめください。校長も我が家に感謝状を贈るって言っていましたから」
「エマ、私が一週間もあなたと離れるのが嫌だから止めても無駄よ」
ミカサが校長室に行った後、再び私は校長室に呼ばれた。疲れ果てた様子の校長から懲罰室に入る期間は三日に短縮された。
ミカサはまだ怒っていた。「あの校長め、懲罰室入りは一日って妥協しているのに」
ミカサのお姉様の愛が少し重く感じた。
校長から渡された本は『魔道具回路の研究応用編』この本を三日間で要約するのはキツい。一週間はほしい。睡眠時間をかなり削らないと無理だ。とっても気分が重い。ミカサはまだ怒っている。私って極々平凡な女の子なのに、なぜそんなに私に執着するのだろう。謎だ。