天界の陰謀その3
「精霊様、この悪魔はなぜ精霊様にお茶を淹れているのでしょう?」
ディアブロさんが執事服姿の時に悪魔とか言うのはタブー。ピキって音が聞こえたし。
「この人は悪魔ではなく私の執事でディアブロと言います」みなさんを驚かせて申し訳ありません」
「私たちが驚いたのは先祖代々張ってきた結界にまったく触れずに精霊様のご臣下がここに来られたことです」
「ディアブロさんはとっても優秀な方ですから、結界を抜けて来るのは簡単なことです」
「長老様、精霊様の臣下の方でさえ容易く入って来られる結界では心許ない」
「結界を今以上に厳重なものに変えるように進言いたします」
「そうしよう。学者に動員をかけよ」エルフさんたちの動きが慌ただしくなった。ドワーフさんたちの存在は忘れられている。
「エルフのみなさん、ドワーフたちはすべて私の庇護下に入れました。ドワーフに害をなすものは私が相手になります」
「精霊様、ドワーフのことはお任せします」と長老が言ってくれた。
ディアブロさんがこっそり私に、イアソーが宮殿を破壊したので天界から兵士が送られて来るのはもう少し先のことだと教えてくれた。
天界の流儀としてはディアブロさんみたいに隠密裏に侵入するのではなく、軍楽隊と一緒に派手にやって来るから、すぐにわかるし、即座に迎撃出来るから心配ないとも言う。
世界樹だけなら天界がどんな兵器を使おうが傷一つつけられない。なぜなら世界樹は存在するけれども存在しないからだそうだ。世界樹は物ではないらしい。
天界の攻撃で、世界樹の周囲千キロメートルの大地には生きものは一切存在しないと言う聞きたくもない予想も語ってくれた。
「ディアブロさん、これって私では止められないよね」
「エマ様なら、止められるのではないでしょうか」とそう言うと消えてしまった。
「エマ、エマ、聞こえる?」
「私を呼ぶのは誰ですか?」
「僕はユグドラシル、エミルの分け御霊、世界樹って君たちは呼ぶけど」
「私に何かご命令でしょうか?」
「ううん、間違いを訂正したくて、僕は存在するけど存在しないって言うのは間違いなの、僕は有って有るもの常にいついかなる時も有るのが僕」
「命令ではなく、お願いなんだけど僕、エマに見せたいものがあるので、世界樹の所まで来て欲しい」
「承知しました。ユグドラシル様」
「エミルと同じようにユグドラシル君って呼んでほしいね」
私は世界樹の近くまで来たけど、エルフさんたちが誰一人いない。厳重警戒はどうしたの?
「エマ、いっらしゃい、どうぞ中に入って」
目の前の扉が開いた。中に入ったら地面がない。星々が輝いている。ここはどこなの?
「ここはエマがいる世界、エマたちが暮らしている所は、ほらあそこにある球体で僕は惑星って呼んでいる」
「私たちは平面の大地の上で暮らしていて周囲が海に囲まれていると教えられましたが」
「大地は球体だよ、陸地はそうね全面積の十パーセントくらいで、残り九十パーセントが海だよ」
「天界の人たちはここからハルカ彼方から来た人間で、自分たちを自分で改造して不老不死になった人間たち」
「不老不死になった代償に、自分たちの惑星が住めなくなってしまい、ここにたどり着いた人たちが天界の住人だったりするんだよ」
「自分たちは異世界から来たって思っているらしいけど、僕の世界の北から南に移住した程度のことだったりする」
「彼らもエミルの子どもたちなんだ」
「エマ、天界の人たちが自分たちが神になったと思う原因ってわかる?」
「自分たちが不老不死になったことでしょうか?」
「そうだよ、たったそれだけで神になったと思っているの、エマなら彼らの自信をへし折ることができる」
「君はグリムリーパーだもの、彼らに老いを与えてほしい」
「私はその人に触れなければ老させることはできません。第一私は天空船を持っていませんから、天界に行けません」
「エマ、その条件をすべてクリアしたらやってくれるんだね、僕嬉しいよ」
「ユグドラシル様」
「ユグドラシル君って呼んでくれるかな」
「ユグドラシル君、私がどうしてもやらないといけませんか?」
「エマしかできない」
「承知しました」
「これでおしまい、君は天界に行けるようにした。君が望む者に老いを与える権能を付与した」
「ユグドラシル君、私一人で行くのですか?」
「一人は寂しいよね、この小鳥と一緒に行くと良いよ」
私の肩に青い小鳥がとまっていた。




