アルムの山
「麓でこれだけ硫黄の臭いがするとなると山に入れば、空気に毒が混じっているはず」とウエルテルが言う。
さすがの私でもシールドに八人はキツい。
ウエルテルとヴィクターで空気中の毒素を除去するマスク型魔道具の開発を始めた。主に魔法が使えないゆきちゃんのために。ゆきちゃんが一番支障がないのだけど、アンデットだし。言わないけど。
開発及び製作に一週間でマスク型毒素除去魔道具が人数分できた。私には一切相談はなかった。私はみんな忘れているだろうけど、魔道具回路研究部の部長なんだよ。
「このマスクをすると話し辛いですね」って肝心のゆきちゃんがマスクをずらして話すので、「健康のためです。マスクはちゃんとしてくださいね。ゆきちゃん」と私がせっかく、ウエルテルとヴィクターの作品を無駄にしないためにゆきちゃんに注意をした。
アルム山に登って行くと数人のドワーフさんたちがいた。
「ここは立ち入り禁止だ。さっさと山を下りろ。もうすぐ火山の噴火テストをするから大ケガするぞ」
「この山は火山ではなかったはず」とウエルテルがドワーフたちに言い返した。
「俺たちがこの山を火山に作り変えた、今日から立派な火山になる」
「このアルム山は王家の所有で勝手な改造は許されない」
「王家って何だ? 依頼者と連絡が取れなくなった間抜けな代理人のことじゃないのか?」
「と言うことは王家よりも依頼者の方が上ってことだよな」
「王家よりも上の方の依頼なので問題ない」
「王家は天界と連絡出来ないのか。これはビッグニュースだ」とウエルテルには珍しく満面の笑顔になっている。
「私たちはエミル様の命で火山の噴火と津波を起こさせないよう言われてここに参りました」
「エミル様って誰だよ」
「ウチの爺様が拝んでいる神様で、俺たちはエミル様の子どもらしい」
「俺たちも依頼を受けたし、エミルさんがどう言おうと火山の噴火と津波は起こす。そう言う契約になっている」
「火山の噴火の規模とか津波の規模についてはどう言う契約内容なのでしょうか?」珍しくグレイ君が発言した。
「規模? 知らねえよ。火山が噴火して津波が起これば良いだけ」
「津波の規模は十センチメートルで火山の爆発の規模は半径一キロメートルに火山灰が落ちる程度に出来ないでしょうか?」
「出来ないとは何で俺たちに疑問形で尋ねる! 出来るのに決まっているじゃないか」
「もちろんお代は必要だがな」
「お幾らほど」
「ドワーフと言えば黄金だろう。ミスリルでもオリハルコンでもアダマンタイトでも良いけどな」
「我が家にアダマンタイトの鉱石が一キログラムありますけど」
「はい、その依頼引き受けました」と言うとドワーフさんたちはアルム山の山頂に駆け上がって行った。
そんなに簡単に引き受けて良いのだろうか? 騙されてるとか思わないのだろうか? 世の中悪い人も多いのに。
しばらくすると火山が噴火したものの、噴石が真っ直ぐ上空に数個飛んで、周辺に火山灰が降って来た。地震はほとんど感じなかった。海面が少し盛り上がったようには見えた。
「こんなもんでどうだ?」とドワーフさんたちが一斉に言った。
「ありがとうございます。十分でございます」と私が代表してお礼を言う。
「俺たちとしてはまだ納得できないが、依頼主さんが良いって言うのならこれで良しとするか?」
「依頼主さんが良くても、俺は納得できない、噴石の数が少ない、派手さがほしい。数十個はブチ上げて、ドドンとでっかい効果音がほしい」
「明日までにその調整は難しくないか?」
「俺たちに出来ないって言うのか?」
「出来るけどよ」
「出来るならやるべしだろう」
「マア、面白いからやるとするか」
「お嬢ちゃん、アダマンタイトの鉱石だけど、俺たちの国に運んでくれよな」
「承知しましたが、ドワーフさんたちの国がどこにあるのかがわかりません」
「ここからそれほど離れてない所に一見廃坑に見える坑道が見える。そこに入って道なりに進めば俺たちの国だ」
私は青い帽子に青い上着に青いズボンに着替えてヴァッサで、アダマンタイトの鉱石を家まで取りに行った。
父上が、「これはバイエルン家代々の家宝で持ち出し禁止だ」と涙目で訴えていたけれど、大災害がこのお飾りの鉱石一つで起こらないのだから、問題なしって言うことで、「父上、人命尊重です。似たような鉱石は私が見つけてきます」と口約束をして持ち出した。
母上が「エマ、戻って来たらタダでは済まさぬ」って言ってたらしいけど今さらだし。
「これがお約束したアダマンタイトの鉱石です」
「コリャ上物だ、噴石数十個だとぼったくりかも知れないな、数百個にするか」とドワーフさんたちが変な方向にオマケをしてくれている。それって災害になるのでは、やめてほしい。
「色も付けた方が綺麗かもな」
よくわからない方向にドワーフさんたちは盛り上がっていた。




