エマにホーエル・バッハ討伐の命がくだされる
近隣の貴族はとっても協力的で新聖女軍の補給は順調に進んでいる。
王都から早馬がやって来て「王命である、新聖女軍司令官エマにホーエル・バッハ家の討伐を命ずる」私、そう言う命令は聞きたくありません。
「王命、謹んで拝受しました」ととりあえず受けておく。もちろん討伐なんてことはしない。
「ハーベスト准将、補給はどうなっていますか?」
「周辺貴族がなかなか協力せず、進みが遅いです」
「補給ができ次第討伐に向かいましょう、ハーベスト准将」と王命を持って来た使者様に向けて、小芝居をしてみた。使者様は苦虫を噛み潰した表情になっていた。
補給が終わった部隊から順次、ここから離脱してバイエルン領に行くようにと指示は出している。しかし原則は兵士任せで、別に故郷に戻っても問題なしと各部隊長には伝えてある。と言うことで日に日に新聖女軍の兵士の数は減って来ている。
使者様はお目付役でもあるようで、王都に戻らない。
「いつになればホーエル・バッハを討伐するのか!」とうるさく言って来るので、兵士のテントを一緒に回った。兵士がいるはずのテントはもぬけの殻。
「どうも兵士たちは逃げ出したみたいですね。天界から来た神様もなぜか、ホーエル・バッハについたようです」と私は、使者様に告げ、王家に援軍を寄越してもらうようお願いしてみた。
使者様の顔は真っ赤になったと思ったら青くなって最後は真っ白になってしまった。
「もはやこれまで、使者様も私たちと一緒にホーエル・バッハに斬り込みましょう」と言ったら、「お前たちの武勇を国王陛下に伝える」と言って王家の使者様は一緒には来てくれそうにはなかった。
ホーエル・バッハの兵士1万がコチラに進軍を始めると、使者様はいずこかへ行ってしまった。使者様は私たちの最期を見届けるって言ったのに。
ホーエル・バッハ一万の兵士を率いているのはエミル君だった。その後ろにグレイ君がいる。
兵士が逃げてしまって私としては戦えないので、休戦協定をホーエル・バッハと結んだ。これはあくまでも新聖女軍とホーエル・バッハ家との間の休戦協定で王家はそれには縛られない事を明記しておいた。
王家がホーエル・バッハ家を攻めたければご自由にと言う内容になっている。
私には大聖女という権威はあるけど、マア直属の軍団もあるけれど、王家に叛く気持ちはない。
バイエルン家の外の人たちから見れば、私が、バイエルン家の実質当主に見えているかもと思ったりする。でも実際にはハンニバルが王宮に行ったので、今のバイエルン家を仕切っているのはレクターだったりする。
「彼女」は私以外の人とは「会話」をしないみたい。伝えたいことがあると絵を描いている。
私宛に「彼女」から絵が届いた。これは未来のこの世界だ。
火山の噴火らしき絵と津波の絵がしっかり描いてあった。自然災害を私にどうしろと言うのか?
エミル君に尋ねたら、「天界の人たちの仕込みだからその仕込みを壊せば、火山の噴火も津波も起こらないよ」と言う。
仕込みってなんだよ。私は一受験生だし、世界を救うなってすごい事はできない。
それ以前に舞の稽古では毎日、毎日エミル君からのダメ出しでへこんでるし、これ以上私に何をさせたいのか。本当にいい加減にしてほしいとササクレた神経になってる私だったりする。
エミル君とイアソーさんは、エミル教徒のみんなさんが開催するエミル君の降臨祝い、歓迎式典に参加するというので、ホーエル・バッハに残ると言う。
「火山と津波はどうすれば良いのでしょうか?」
「僕が関わると神々の戦争になるので、エマに任せるよ」
「それに、どう言う仕掛けなのかもわからないし、助言も無理」
私は途方にくれた。
ウエルテルが「彼女」の絵を見てこの山は海沿いにあるアルム山に似ている。でも「アルム山って火山ではなかったはずなんだ」って不思議がっていた。
手掛かりはアルム山だけなので、私たち八人はアルム山に向かうことにした。
「また山かよって」と私はこぼしてしまった。
アルム山の麓に着くと硫黄の臭いがした。
 




