探偵部の4人には、暗い過去があった
んー、納得がいかない。
その夜、俺たちは事件があった三丁目に来ていた。
「あー、ここですか」
山宮は辺りを見渡しながらゆっくりと歩いている。
「いやー、ここで殺人犯なんかでたらひとたまりもないで」
その横を笑いながら歩くひなは、どこか楽しそうだった。
「そういえばなんで夜なんだ?」
俺は問いかける。なんとなくついてきたが、俺が探偵部の教室に入ってから約三時間が経っている。こんな遅くなるなんて知らなかったから妹に怒られた。ま、実際『怒られた』という表現は正しくないかもしれない。なぜなら俺がさっき、遅くなるとメールしたら既読スルーされてしまったから。これはもう終わりですね、はい。
「それは夜に出てくる場合が多いからでござるよ」
その問いに、俺の隣を歩いていた智久が答える。
「そうなのか…てかお前、そんな『ござる』口調だったか?」
教室では普通に喋ってたと思ったけど。
「あー、僕は口調が気分によって変わるんでござるよ。明日は違うかもしれないし同じかもしれない。そんな曖昧な気分によって続いていくんでござるよ」
「そ、そうなのか」
「はいでござる」
山宮もそうだがこいつも中々変な奴だな。あまり関わりたくないタイプ…だが悪い奴ではなさそうだ。
「それにしても、お前ら大丈夫なんか?」
俺や智久はいいとして、女子3人は大丈夫なのか。もう七時を超えてるけど家とか帰らなくていいのか。
「なんやゆうちゃん、怖いんか?」
にやにやしながらひなが俺の顔を見て言う。
「別に怖くねーよ!お前らが家とかに帰らなくてもいいのかって話してんだよ。第一、これから殺人犯に会うんだろ?なんかこう、ほら、恐怖心とかないのか?」
ひなの顔が曇った。なにも喋らなかったが、智久も顔を逸らしていた。
「…家ねぇ。そんなものはここ数年、私たちにはないわ。恐怖心も、そのせいで薄れてるわね」
今まで何も言わなかった香織が、どこか遠くを見るように語った。
「そ、それはどういう…?」
なんかやばいこと聞いちゃったか?俺そんな空気に慣れてないんだけど。
「私たちさ、あんた以外小さい時から一緒でね。簡単に言うと孤児院みたいなとこに保護されてたの。小さい時だから親の顔もはっきり覚えてない、捨てられたんだよ。生まれ持った能力に怯えたんだろうよ。ちなみにあたしの親は「こんな子を生みたかったわけじゃない!」って言ってたそうよ。…ひどい話よね」
他の3人は黙っている。
「だからさ、家はないんだよ。今は学校のあの教室で寝たりしてる。でも結構住みやすいんだよ、あの教室。広いし食には困んないし。あ、食べ物は一応『探偵部』ってことで学校から依頼達成料として貰えるから大丈夫なのよね。泊まることも許されてるし。…だからさ、親に捨てられるって恐怖心より怖いものはないのよ」
「その、なんか…ごめん」
こんな暗い過去があったなんて。俺はどうすることもできずに謝ってしまった。こういう時に何もできないのが俺なんだ。自分に腹が立ってくる。
「あ、ごめんなんか気を使わせて。暗い話しちゃったわ。ひな、盛り上げて」
「そ、そうやでゆうちゃん。気分、盛り上げてこー!」
「僕も参戦でござるー!」
「…」
必死に空気を変えようとひなと智久がわいわいしている。だが俺は、そんなことにも目もくれず、考えていた。「俺はお前らを辺な奴らだと思ってた、悪かった。だからお前らに協力させてほしい。俺も探偵部として、お前らと一緒に活動していく!」
俺にしてはなんか熱いことを言ってしまった。柄でもない、俺らしくない言葉。だが今の俺には、そうすることしか出来なかった。
「ゆうちゃんはもう、うちらの仲間やんか。入部したらもう探偵部の一員やで?」
「そうでござる。実際、辺な奴らですから」
「…」
山宮だけは一番前で顔が見えず、喋らなかった。スタスタと前へ進むばかり。
「…ちょっと待って。ここで止まって」
急に香織が声を上げる。
「ん?どうしたんだ?」
「…いるわ。ここから前方に90メートル先」
俺は何がいるのかすぐには分からなかった。だが、俺以外の3人はそれまでの顔を変え、身構えていた。
「何がいるんだ?…もしかして、殺人犯か!?」
「しっ、声出さんといて」
ひなは俺を静止させる。
「近づいてくる、反応は4つ。普通の人とは違う気配を感じるわ。間違いなく殺人犯よ」
まじか、ついに殺人犯が現れるのか。俺は息を飲んだ。すると前の方から悲鳴が聞こえてきた。
「まずいですね、被害者がでたようです」
それまで喋らなかった山宮が口を開いた。
「後20メートル…。その角から出てくるわ」
どんどん近づいているらしい。
「ど、どうするんだ?」
「今日は逃げます」
「え?」
山宮からそう告げられた。ここまで来たのに?なんのために会いにきたんだよ。
「今日は情報を集めるだけです。なので正体をみたらすぐ逃げます」
「え、戦うとかしないのか?」
てっきり俺は、殺人犯を倒して事件を解決するかと思っていた。
「今日は戦いません。今の段階では情報が少なすぎます。探偵部として情報を集め、しっかり準備してから戦います。それともあなたは今の段階であの殺人犯に勝てるとでも?」
「い、いや勝てないけど…」
「では決まりです。姿をみたらすぐ後ろに逃げますよ」
論破されてしまった。そうだよな、それが正論だ。俺は山宮の指示に従うことにした。
「来ますよ」
俺は身構えた。どんな奴が来るんだろうか、心臓がばくばくしていた。すると、前の角から人影が見えた。その影は、こちらへと向いていた。香織の言うように、確かに4人いた。だが1人と3匹といった方が正しいかもしれない。1人は確かに人だが、後の3匹はそれぞれ、犬、猿、キジの格好をしていた。俺は驚き、立ちすくんでいた。
「何やってるんですか、逃げますよ」
山宮に腕を掴まれ、はっとした。そうだ逃げなければ。その瞬間、桃と書かれた鉢巻をしている奴と目があった。
『鬼…殺す…村人…泣かせるな…』
「やばいでござる!見つかったでござる!」
「まじですか、早く逃げましょう」
俺は山宮に強引に腕を引かれ、そいつらから逃げた。
頑張ります。