勝手に入部は聞いてない
一日二項目。感想などお願いします!
「じゃあねー」
「また明日ー」
クラスの人が、一人一人と教室を後にする。ホームルームも終わり、それぞれが帰路へとついていくそんな中、俺は一人、教室の自分の席に座っていた。正確には俺以外にも席に座っている者がいるんだが…。
「……」
隣の席でずっと前を向いて座っている女の子。その人こそ、俺が放課後まで残っている理由だ。俺を呼んでおきながらまだ何も喋らない。ずっと黒板を見ている。その横顔は、『無』そのものだった。
「え、今日一緒に帰られないって?」
「そうなんだ、ごめんな」
国語の授業が終わった時、俺は海斗に断りをいれた。だが理由は伏せておいた。まさか隣の女の子に放課後に呼び出されたとか言ったらこいつは大騒ぎするだろうからな。
「そうか、じゃ俺は寂しく一人で帰るとするよ…ぐすっ」
「ごめんな…ぐすっ」
海斗も深く聞いてこなくてよかった。
さすが俺の親友!(俺は思っている)
「……」
なんてことがあって海斗には一人で帰ってもらい、今に至る。まだ彼女は黒板を見て一言も発しない。
「あのー、そろそろ用件を…」
俺は耐えきれなくなって聞いた。
「…まだ」
喋った!初めて声聞いたかもしれない。その声はとても可愛らしく、だが感情がこもっていない声だった。
「でも俺もそろそろ帰らないと…」
俺がそう言い、俺ら以外に教室に残っていた人が出て行った瞬間に彼女が口を開いた。
「君、Sだよね?」
彼女はこちらに顔を向け、問いかけた。
「あ、うん。そうだけど」
そう答えると、彼女は急に立ち上がり、手を差し伸べた。
「私たちのこと、手伝ってほしいんだけど。ついて来てくれる?」
彼女はそう言った。
「私たち…って、手伝って…って。な、何を?」
「いいから、早く」
「うおっ、ちょっと!?」
俺は強引に腕を掴まれ、椅子から引きづり下ろされた。いや、俺にそんな趣味はないぞー…って俺は一体、どこに連れて行かれるんだ!?
「ここ」
俺がしばらく、彼女に引きづられて着いた場所。そこは一つの空き教室だった。
「…ここは?」
彼女は俺の問いに答えず、その教室の扉を開けた。
「…入って」
「入って…って言われても」
「いいから」
俺はしょうがなく指示に従うことにした。入る時、よく見るとその空き教室の扉には『探偵部』と書かれていた。
「そこ、座って」
中に入ると、彼女は俺を椅子へ座るよう指示した。俺が椅子へ座ると、彼女は両手を広げ、こう言った。
「探偵部へようこそ」
「探偵…部…?」
「そう、探偵部」
教室を見渡すと、地図やら写真やらがびっしり貼られていた。ということは部活勧誘か、びっくりして損した。
「もしかして、部活勧誘ですか?」
「そう」
やっぱりそうだった。なら答えは一つ。
「残念ですが、お断りします。俺は部活に入る気はありません」
そう、断る。俺は部活に入るつもりはない。
「……」
彼女は黙っていた。しばらく黙った後、彼女は口を開いた。
「だが君はもう入部している」
「…は?」
俺は入部した覚えがないぞ。
「何を馬鹿なことを言ってるんですか。俺は入部した覚えが……」
「もう一度聞く。君はSランクだろ?」
俺の言葉をさえずり、彼女は問う。
「そうだけど」
「じゃ、入部している。この学校のSランク生は必ず入部することになっているから」
なるほど、そういうことか。…いや、なるほどじゃねーよ!何勝手に決まってんだ、先生何も言ってなかったぞ!
「…勝手に?」
「勝手に」
「拒否権は?」
「ない」
まじかー、これ絶対帰してくれないやつじゃん。
「…分かったよ。入部すればいんだろ?てかもう入部してるんだろ?」
「はい」
俺は諦めた、早く帰りたいから。早く帰って妹の機嫌を直さないといけないからな。
「で、何をするんだ?この部活は」
「いえ、今日は入部してもらうだけの予定だったので。帰っていいですよ」
急に敬語になった。
「え?いいのか?」
「はい」
俺はそう言われて教室を出た。彼女とはそこで別れ、俺は帰路につく。
「おっと、帰りにモンブランでも買ってくか…」
妹の機嫌を直さないとな。
夜七時。外は真っ暗になっている。俺は右手にケーキ屋の箱を持って家の前に立っていた。
「まいったな…」
家の前に着いたはいいもの、家からは不穏な空気が漂う。いかにも噴火しそうな火山のように熱がこもっていた。
「仕方ない、いくか」
俺は覚悟を決めて中へ入った。家のドアを開けると、そこには仁王立ちの妹、いや『クロウト』がいた。
「や、やあ妹よ。帰りが遅くなってごめん」
妹は俺の声を聞くと、鬼のような形相を俺に向けた。
「ねぇ、遅くない?喧嘩売ってんの?夜ご飯作る身にもなって?」
「い、いや遅くなったのは謝る。ケーキ屋が混んでてな……ほ、ほら!お前の好きなモンブラン、買って来たから!一緒に食べよ?な?」
モンブランと聞いて妹の様子が変わった。
「モ、モンブラン?」
「そう、モンブラン」
そうだ、妹はモンブランに目がない!これを利用して機嫌を直してもらう作戦!我ながらいい作戦だ。
「そ、それは…ありがと…」
おっ?照れた?ちょろいな、モンブラン一つでこうも変わるとは。いやー妹も可愛いとこあるもんだよ。
「ふぅー、お前のカレーは世界一うまいな!」
すかさず俺は機嫌を直すための言葉をかける。
「あ?それで機嫌直ると思ってんの?」
否、無意味だったようだ。妹にはモンブラン以外効かないらしい。これはもうお手上げだ。
「……えー、昨夜未明、例の連続殺人犯が三丁目の交差点で現れました。今回の死者は3人で、これにより合計死者数は10人に到達しました」
妹がつけておいたテレビから、そんなニュースが流れてきた。
「いやー、この辺も物騒だな。三丁目の交差点って結構近いじゃん」
「兄ちゃんもそいつに襲われればよかったのに」
おい…、妹よ。それは冗談でも洒落になんないからやめてくれ…。
「……続いて、目撃者の証言です。『殺人犯は1人じゃなく、4人いた。1人は鋭い牙を持ち、1人は素早く動き、1人は空を飛んでいた。そして最後の1人は……」
俺は寝ることにした。明日もあの女の子に呼ばれると思うし。さ、消灯。
「……えー、そして最後の1人は、刀を使い、頭には『桃』と書かれた鉢巻をしていた。さらにこう叫んでいた……『鬼は…殺す』と」
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