妹に嫌われ、隣の子にも嫌われ
暇なんです。
高校に入学して二週間が経ったある日。俺は海斗と一緒に昼飯を食べていた。
「お、雄也んとこ手作り弁当かぁー。いいなー、俺なんか作ってもらえねーよ」
そう言って海斗はコンビニの袋から鮭おにぎりを取り出した。それを勢いよく頬張る。
「親、忙しいのか?」
「いや、俺ん家両親共働きでさー。じぃちゃんとばぁちゃんと一緒に暮らしてるんだけど、ばぁちゃん入院しちゃって弁当作れねぇんだ」
「じぃちゃんは?」
「じぃちゃんなんかの飯食ったら俺も入院だわ!」
海斗はうえーと吐く動作をする。
「ところでお前、その弁当誰に作ってもらってんだ?」
「妹だけど」
「い、妹!?」
急に海斗は立ち上がった。
「い、今、妹って言ったか!?」
「言ったけど」
海斗はかぁーと手を額につける。
「お前、アニメの主人公かよ…。前世で何やったらそんなんなるんだよ!」
海斗は喜怒哀楽がめちゃめちゃになって、ついには椅子の上に正座した。
「ではその弁当、見させていただく」
海斗は俺の前から弁当を奪い、その蓋を開けようとした。
「え、ちょっと待て……!」
俺が止める隙もなく海斗は蓋を開けた。
「おっ、お前、オムライスに字書いてんじゃね……」
そこまで叫び、海斗は口を閉ざした。そりゃそうだろう。そこには確かにオムライスの上に文字が書いてあった。人から見れば最高だろ!ってなるとこだけど、そこにはこう書かれていた。
『しね』
「……」
「……」
「なんか…ごめん」
「同情すんな、ばか!」
入学式以来、こんな感じだ。弁当を作ってくれるのはありがたいが、毎日こんなでは気がもたない。オムライスだけじゃない、どの食べ物でも最後にケチャップで『しね』と書かれるんだ。
「お兄ちゃん、今日も弁当作ったよ」
「お、おう。ありがとう…」
俺は渡された弁当をつかむが、明菜は離さない。
「ど、どうした妹よ。早く渡してくれないか…」
明菜はニコニコとするばかりで離さない。すごい握力だ、こんなん女の子の力じゃない。
「お兄ちゃんケチャップ大好きだもんね。今日も可愛い『クロウト』から愛のメッセージ書いといたから、しっっっかりと味わってね?」
そう言い、今度は力強く押し返される。俺は尻もちをついた。まだ『クロウト』のことを根にもっているらしい。
「お、おい。もうクロウトのことは謝るから、悪かったって。ほ、ほら今度お前の好きなモンブラン、買ってきてやるから。き、機嫌直して…」
明菜の目付きが変わった。
「早く行け、このくそ兄がっ!!」
俺は外に蹴り出された。
「そ、そんなことがあったのか…それはお前が悪いぞ」
「うん、俺は妹という存在が消えてしまったらしい」
「ご愁傷様」
こんな話をしながら海斗と飯を食べていると、多くの視線を感じる。
「お前、今日も見られてるな」
「そうだな」
入学して二週間が経ったのにも関わらず、まだSランクとして俺を見てざわざわしている。
「いい加減飽きねーのかなー?」
海斗も最初は驚いていた。俺がSランクだと伝えると飛び上がる様に驚いたが、それでも海斗は、
「Sランクだからって雄也は俺の最初の友達だ!」
なんて言ってくれた。もうなんていい奴なんだ。こいつとは一生友達、いや親友でいたい。
「……」
俺に寄せる視線のうち、一際強い視線があった。
「おい、またお前の隣の席の子、じっとお前見てるぞ」
「うん…」
そう、俺の隣の席に座って一人で弁当を食べている女の子。その子の視線がダントツで一番強かった。顔に表情は無く、感情もゼロであるかの様に俺をずっと見ている。
「お前、あの子になんかしたのか?…あっ!中学一緒とか?」
海斗は俺の耳元でささやいた。
「いやちげーよ。同じ中学じゃねーし、第一まだ入学して二週間だぞ、なんも悪いことしてねーっての」
あんな子を俺は中学校で見たことない。俺もちょっと前に卒業アルバム調べたし。調べてもこの子はいなかった。なら尚更なんで見てるんだよ、というか入学から多分見られてたよね?もう何したんだよ俺が。入学して早々に女子に嫌われるとか終わったわ。
「清少納言が書いたのが……」
昼休みが終わった後、国語の授業が始まった。前の席では海斗が早々に居眠りをしている。
「も、もう食べられないよ…むにゃむにゃ…」
どうやら夢の中でも食べているらしい。さっき食ったばっかだろ。
『コツコツ』
海斗の寝姿を見ていると、俺の机から音がした。なにかと思い、音のする方を見ると、隣の女の子がこちらを見ていた。どうやら俺を呼んでいるみたいだ。
「ど、どうしたの…?」
俺は恐る恐る聞いた。ついに何かキツイことを言われる、そう思い身構えた。だが予想とは裏腹に、彼女は自分のノートを突き出した。
「…?」
そこには可愛らしい丸文字で、こう書かれていた。
『放課後、この教室に残って』
「放課後に…待ってればいいの…?」
彼女はうなずき、すぐ黒板の方へ体を向ける。そして何事もなかったかの様に授業をまた、受け始めた。
明日も書くです。