能力ってSでも使わんよね
続けないと。
この世界には、能力を持つ人間とそうでない人間がいる。能力、といってもスポーツや学力といった能力ではなく、いやゆる『本当の能力』だ。例えば、超能力、異能力、などといった類いだ。その能力を持つ人間は、稀に生まれる。ある数学者がまとめたデータを見るに、約百分の一の確率でこの世に生まれてくるらしい。まぁ、簡単にいうと突然変異のようなものだ。そんな突然変異を、俺、時谷雄也は持っている。そんな俺が、いつ能力があると分かったか。それはちょうど一歳になる誕生日のことだった。俺は机に置いてあった祖父からの誕生日プレゼントを、『浮遊』させたのだ。両親は驚きと共にため息をついたらしいよ。ま、そんなこんなで俺もすくすくと成長して十五歳。今年から高校生だ。
「いってきまーす!」
俺は勢いよく家を飛び出た。
「ちょっと!お兄ちゃーん!お弁当忘れてるよー!」
家から数メートル進んだところで、家の方から声が聞こえる。振り返ると、妹の明菜が俺の弁当をもってこちらに走ってくる。
「もう、お兄ちゃん!おっちょこちょいなんだから…」
「お、ごめん。ありがとう」
「どういたしまして。じゃ、改めていってらっしゃい!」
俺は再び高校への道へ向く。
だが少ししてすぐ振り返る。
「おい、妹よ。お前、そんなお兄ちゃん大好きキャラだったか?」
俺は疑問に思ったことを口にした。さっきから違和感があったんだ。妹は、兄に忘れた弁当をわざわざ追いかけて持ってくるなんてことしない。今まで家では、「くそ兄がっ!」とか、「近よんな、このくそ兄っ!」とかしか言わなかった。…俺、くそ兄言われすぎだろ…。
「べ、別に好きじゃないよ。お弁当忘れたから慌てて届けただけだよ」
「何を勘違いしてるのか知らんが、俺はお前なんかに好意を抱いていないぞ。安心しろ」
そこで妹の優しそうな表情が壊れた。
「はぁ〜…今日から高校生だから優しくしてやったと思えば!損だわ、損。返してよ、時間と労力」
出ました黒い妹、略してクロウト。俺がそう呼んでるだけであって、今の妹にそんなことを言おうもんなら新品の制服が古着屋行きになる。だが、妹はクロウトでなきゃ。
「お前はそうでなきゃ。優しい妹なんか、俺は求めていない。…クロウト」
言ってしまった。俺はすぐ振り返り高校へと走った。
「誰がクロウトじゃ、くそ兄がっ!二度と帰ってくんな!」
うわーお、今日は家に帰るのが遅くなりそうだ。
私立川崎長高校。ここは国が設立した、能力を持つ者の為の高校だ。ここでは入学試験として、能力のチェックが行われ、その能力に応じてランク付けがされる。上から、S、A、B、C、D、Eといった感じにだ。ま、ランク付けされたからって成績が変わる、対応が変わる、なんてことはない。ただ、ランクが高い者はジロジロ見られる。それが人間。自分より強い者を見てしまうのは本能だ。で、そんな俺はなんとSランク。一番上のランクに付けられてしまった。あ、勘違いしないでほしい。この世界は能力を持つ者がいるが、その能力は大したことない。Sだから世界を支配できるとか、無双して最強であるとかはない。ちなみに俺は、さっき言ったように物を『浮遊』させることができる。…ただ、自分の体重の重さまで。しかも自由に動かせるのではなく、縦横の直線上だけ。…なんとも不完全な能力だろうか。これでSだ。確かに他の人の能力よりは強い能力だから今は納得している。というか納得せざるを得なくなった。
「…で、あるからして〜…」
入学式での校長の話が終わり、自分の教室へと向かった。俺の教室は1の4。窓側の一番後ろの席。なんともいいポジション…いや待てよ、陰キャポジじゃないか?初日からクラスで浮くのはごめんだ。だが今更変えられない。仕方なく俺は席に座る。案の定、教室はざわざわしていた。だがそれは俺が陰キャに見えるからではなく、俺がSランク判定されたからだ。もう、噂は広まっているらしい。今年の新入生の中には、俺の他にSランク判定された者が5人、いるらしい。そいつらのとこに行ってくれよ。だからクラスの名簿に、名前とランクを書くのは嫌なんだよな。
「なぁなぁ、お前の能力って何?」
「え?」
前の席にいた男子が話しかけてきた。どうやら俺がSランクだとまだ知らないようだった。それは嬉しい。
「俺は、えっと、物を浮かせられるんだ」
そういって俺は、机にあった俺のシャーペンを、そのまま上へと浮上させた。案の定、周りはいっそうざわざわし始めた。
「うおっ!すっげぇー!いいなー、めっちゃいい能力じゃん!」
「そ、そうかな。ありがとう」
「俺なんかしょぼい能力だよー」
そう言って、彼は鞄から割り箸を取り出した。そしてそれを、割った。
「これは?」
俺は意味が分からなくて聞いた。
「見ての通り、割り箸を綺麗に割った」
見ると、あんなに勢いよく割ったのにも関わらず、断面が綺麗になっていた。
「俺の能力は、割り箸みてぇな二つで一つの物を綺麗に割ることができる。ほら、アイスでもあるだろ?二本で一つのアイス。そんなのをどんな状態でも綺麗に割ることができるんだ!」
彼はそう言い、ドヤ顔をする。
「す、すごいな」
「ま、こんなん汎用性なくてEランク扱いだけどなー」
ドヤ顔から一気にため息をはく。彼の様に、EやDランクの者はこんな感じにしょぼいものが多い。炭酸を振っても、あふれずに開けられるとか、目覚ましが無くても頭の中で目覚ましがなるとか。一番しょぼいので、ケシカスを出さずに文字を消すことができるとか。どれもこれもあまりにもしょぼすぎる。そう考えるとまぁ、俺の能力はとてつもなくいい能力だなと改めて思う。
「あ、俺の名前は村林海斗だ。これからよろしく!」
「俺の名前は時谷雄也。こちらこそよろしく」
「おう!」
やばい、俺の高校生活いい感じになるかも。初日から友達できたんだけど!やったよ、俺!
「……」
頑張ります。