第89話 宝を目指して
■凛
高等部特別教室棟で、わたしたちは再び階ごとに分かれて探索することになった。
さっきと同じで、わたし、ジョーカー、隆臣が3階で、七海ちゃん、四谷ちゃん、蘭さんが1階で、杉野さん、京さん、学食の仙人さんが2階だ。
特別教室棟は物品の数が多いから、お宝に関するヒントやあのへこみについてのヒントが隠されているはずっ! 頑張って探さないとっ!
まずは地理教室。地理教室には大型の地形図や地球儀だけでなく、巨大なスクリーンや黒板もある。
だけどこれといって手がかりになりそうなものはなかった。
続いて物理教室や化学教室を見てみるが、お宝に繋がるヒントも、タイルのへこみに関するヒントも何もなかった。
絶対何かあると思ったのに、うぅ……残念。
9人がラウンジに集まり、 再び報告をし合う。
特に重要そうな報告がない中、
「これを見てくれ」
蘭さんはそう言って、複雑な凹凸のある六面体をテーブルの上に置いた。
「なんですか? これ」
「カラフルね」
わたしとジョーカーはそう言って、六面体を四方八方から眺める。
一つ一つの面には3✕3の9つのマスがあり、一部がへこんだり、出っ張っていたりしていて、白、青、黄色、赤、緑、オレンジの6色で構成されている。
「元ルービックキューブだ」
蘭さんに言われて、わたしたちはそれが元ルービックキューブであることを確信した。
というのは、あまりにも凹凸が激しすぎて、もはや立方体ではなかったからだ。
「きっとこれは何かのヒントだな」
学食の仙人さんは珍しく頭のキレがいい。的確にこれが何らかのヒントであることを見抜いた。
仙人さんは群を抜いたバカキャラなのだが、今日は非常に冴えているようだ。
蘭さんは元ルービックキューブの面を揃えはじめた。だがすぐに手を止めてそれをテーブルに置いた。
「何かわかったのか?」
亮二さんが尋ねるが、
「いいや、何もわからん」
蘭さんは額に手を当てて言った。
しかし、
「どれどれ、俺に貸してみろ」
篝さんはおもむろに元ルービックキューブを手に取り、全体を見渡しはじめた。
そして首と指をポキポキ鳴らして呼吸を整え、
「ウォォォオオオオオ!」
こ、これはっ! まさか篝さんっ! ルービックキューブができる人なのっ!?
「こういうのは気合いでどうにかするんだよォ!」
『……』
わたしたちは沈黙してしまった。
何やってんだこのポンコツさんはっ! ただバカみたいに大声を上げてガシャガシャやってるだけじゃん!
亀有さんは京さんから無言でルービックキューブを奪い取り、それを隆臣に向けながら、
「品川はこういうのできないのか? 得意そうな顔しているぞ」
と。
「すまん。ルービックキューブはできないんだ」
「そうかそうか。つまり君はそんなやつなんだな」
いきなりのエーミール!? 蘭さん、それはヘルマン・ヘッセもびっくりですよっ!
「あれ? 何か落ちましたわよ?」
七海ちゃんはそう言って落ちた何かを拾い、
「鍵……ですわね」
と、つぶやいた。
「うん」
四谷ちゃんは鍵を不思議そうに眺めてうなずく。
七海ちゃんの持つ鍵の持ち手部分にはコーナーキューブ(ルービックキューブの角のキューブ)がくっついている。
「でかしたぞ京! お前やるときはやる男じゃねーか! すげーよお前は!」
「さすがは篝! やるじゃねーか!」
「見直したぞ!」
「え? ……だ、だろ〜!」
篝さんを褒めまくる蘭さん、亮二さん、仙人さん。そしてなぜ褒められているのか理解していない篝さん。
たぶんこの鍵、ちゃんと六面を揃えなきゃ取れないはずだったんだ。でも篝さんがガチャガチャやって壊してしまったんだ。
結果オーライっ! だね!
「この鍵はどこで使うんでしょうか?」
と、わたし。
わたしたちが探索してきた場所に、鍵を使うような箇所はなかった。もしかしたら別ルートで使う鍵という可能性もなきにしも非ず。
「飯でも食いながら考えてみよう。食堂にもヒントが隠されているかもしれないしな」
全員が蘭さんの提案に乗り、わたしたちは第一食堂に向かった。
第一学生食堂には激デブな男子生徒が鎮座していた。言わずもがな、学食の番人さんである。
「よっす番人!」
仙人さんが気さくに話しかけた。
ラーメンをオカズに白米食べ、ソフトドリンクとしてカレーを飲んでいた番人さんは手を止め、仙人さんの方をクマのようにノッソリと見た。背中とか丸いし巨躯だからくまさんにしか見えないよ!
「おお、仙人ではないか! 一体どうしたんだ?」
番人さんの声は脂肪で気道潰れているようなこもった感じの声だ。
「今日のゲリライベントに関して、何か手がかりとかなかったかなーって」
「ああ、それならライスの食券の裏にだけ、なんかよくわからん矢印が書かれていたな」
「矢印?」
「ああ、黒いペンで書かれていた」
番人さんは思い出しながら語ってくれた。
その言葉を聞いて仙人さんは「うーん」と唸る。
「矢印ってことは、方向があるんだよな」
「そりゃあそうだろ」
杉野さんの当然過ぎる問いに、蘭さんはあきれて答える。
「矢印が何を指していたのか、まったくわからないですわ」
七海ちゃんは両手の人差し指をこめかみに押しあててふにゃふにゃしている。
「むむむ……」
四谷ちゃんもあごに手を当てて首を傾げている。
仙人さんに関しては、我慢できなかったのか、券売機の方によだれを垂らしながら歩いて行って、コインを投入している。
――ピ
「ちょっと待って!」
ジョーカーは仙人さんが食券を取り出す前に呼び止めた。
「何だよ」
「これも買いなさい!」
「は? 何で?」
「いいからはやく! 何かわかるかもしれないの!」
ジョーカーはそう言って仙人さんにメロンソーダを買ってもらっている。絶対飲みたいだけじゃん! もうっ! あとで仙人さんにお金を返しておかないと……。
「そっか!」
ジョーカーは叫び、
「何か分かったのか!?」
蘭さんはジョーカーに駆け寄る。
「番人が言っていたことだけじゃ、矢印が何を指しているのかわからない。でも食券は全て同じ向きで落ちてくるはずだから、番人が交換した食券を見れば、それがどの方向を指しているかがわかると思わない?」
「たしかに……やるじゃないかジョーカー! でかしたぞ!」
蘭さんはそう言ってジョーカーの背中をバンバン叩く。ジョーカーは痛そうに少し顔を歪めている。
そんなわけで、わたしたちは食堂のおばちゃんのところに向かった。
To be continued!⇒
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