第84話 呼吸
■凛
「俺はもう、二度と負けねェから!」
男の子は仰向けに倒れた状態で叫んだ。
ワンピースのとある名シーンのようなバトルは終わり、七海ちゃんが戻ってきた。
さっきまでの王下七武海っぽい雰囲気はどこへやら、いつものサバサバとした七海ちゃんに戻っていた。
「将来有望ですわね。あの男の子」
「七海ちゃんはやっぱり剣が上手だねっ! おめでとうっ!」
「さすがだわ」
わたしとジョーカーは駆け寄って七海ちゃんを褒め称える。
「伊達に爺さん目白の弟子はやってませんことよ」
「お姉ちゃんはほんとに強いよね」
と、四谷ちゃんもスポーツドリンクとタオルを渡しながら言う。
「ありがと四谷。次は四谷の番ですわよ。がんばってっ!」
「ありがとう。がんばるねっ!」
さて、続いては四谷ちゃんの試合を解説しよう。
四谷ちゃんの対戦相手は骨がちな男の子。ひょろひょろでいかにも弱そうだ。
七海ちゃんと同じく爺さん目白の弟子である四谷ちゃんなら、かなり余裕だろう。
しかし、彼の呼吸は違った。
「骨の呼吸……壱ノ型ッ! 骨面斬りッ!」
ひょろくんは一気に間合いを詰め、七海ちゃんに斬りかかった。頭の上の紙風船を狙った刀のスピードはかなり速い。
七海ちゃんは刀でひょろくんの攻撃を受け止めようとしたが、間に合わずに頭の上の紙風船を破壊されてしまう。
七海ちゃんはバックステップで一旦距離を取る。
「(速やすぎる……)」
ひょろくんの攻撃は止まらない。
「骨の呼吸……参ノ型ッ! 骨骨舞いッ!」
複雑なステップで四谷ちゃんの攻撃を避けながら肉薄し、右肩、腰、左ふくらはぎの順で紙風船を割っていく。
「(つ、強いっ! このままじゃ……負けるッ!)」
すると、四谷ちゃんはいきなり目を瞑り、
「ちょっとだけ本気を出さないと」
そう言って刀を投げ捨てた。
「(思い出せ。あのときの……第八感を発動したときの感覚を……)」
「ねへへッ! 剣を落とすなんて、負けを認めたのかッ!?」
ひょろくんは刀を構え直し、
「骨の呼吸……肆ノ型ッ! 打ち骨ッ!」
攻撃を放ってきた。 四谷ちゃんが目を開く。刀を拾い、目にも止まらぬスピードでひょろくんの後ろに回り込んだ。
「何ッ!?」
四谷ちゃんは腰と頭の上の紙風船を一瞬で破壊し、背中の紙風船を割ろうと刀を突き出す。しかしひょろくんは骨の呼吸肆ノ型を攻撃から防御に回し、背中の紙風船を死守した。
「なんなんだお前はッ! なんでいきなり強くなったんだッ! 能力を使っているな!? 審判ッ! こいつ能力を……」
ひょろくんが言い切る前に審判さんは大きく首を振った。
「なんでだよッ! どうしてこんなに! 急に強くなるんだよッ!」
それに答えたのは四谷ちゃんだ。
「残滓記憶を使ってるだけ」
「残滓記憶?」
「第七感や第八感を使ったときの記憶を呼び起こして、そのときの身体能力のほんの10分の1くらいを再現してるってこと」
と、四谷ちゃんは説明した。ちなみに七海ちゃんもさっきの試合で残滓記憶を使っていたよ。
最強の上級感覚といわれる第八感。記憶を呼び起こすだけで、その10分の1の力を発揮できるなんて強すぎると思う。
「なんだよそれ! チートじゃねーかッ! なぁ!? 審判!」
すると審判さんは、
「残滓粒子が検出されない限り反則とは認められません」
と、淡々と答えた。
「ちくしょーッ! 全集中! 骨の呼吸……拾の型ッ! 骨骨流転ッ!」
ひょろくんは刀を片手に持って何度も回転し、四谷ちゃんの方に向かっていった。回転するごとに威力でも増すのだろうか?
四谷ちゃんを跳び越え、四谷ちゃんの背中を取る。
「取ったッ!」
ひょろくんが刀を突き出す。
だがここで、四谷ちゃんは奇想天外な行動を取る。
ひょろくんの紙の刀に踏み乗り、ジャンプして背後を取り返したのだ。
そして四谷ちゃんはそのままひょろくんの背中の紙風船を突き破った。
「(わたしの勝ち……)」
四谷ちゃんは小さくつぶやく。
「そ、そんな〜っ!」
ひょろくんは悔しそうにうつむく。
四谷ちゃんはひょろくんに歩み寄って、
「君……強かったよ」
と。
「え?」
「また来年、戦いたいな」
ひょろくんは少しだけ沈黙して、
「おう! 来年ぜってーリベンジしてやるぜッ! お前! 名前は?」
「わたしは十六夜四谷」
「俺は細川竜之介! もっと修行して強くなってやる! 待ってろよ! 四谷ッ!」
そう言ってひょろくんは清々しい顔で去っていった。
To be continued!⇒
王下七武海……七海ちゃん
てなわけでご閲覧ありがとうございます!