第82話 三種目めチャンバラ 薄男VS爺さん目白
■隆臣
初等部の第六体育館にて、俺たちは子どもに戻っていた。
その種目とは、男子なら一度は経験のあるあの遊び――そう、チャンバラだ。
チャンバラは剣道とは似て非なるものだ。まず竹刀ではなく、新聞紙を丸めて作ったもので、少し強い力を加えれば折れ曲がってしまうようなやさしい刀だ。
勝利条件は二本先取ではなく、一本先取だし、気勢もいらないし、残心もいらない。ただし、背中に取り付けられた紙風船を破壊することが一本の条件になるのだ。
チャンバラなんて聞くと、初等部の生徒ばかりなんじゃないかと思われるが、実はそうでもない。むしろ高等部や中等部の生徒の方が若干多い。
チャンバラは個人7人のリーグ戦で、勝てば10ポイント負ければマイナス10ポイント、勝者は破壊した紙風船の数✕10ポイントのボーナスを獲得できる。
左右のふくらはぎ、左右の太もも、腰、背中、左右の肩、頭の上に紙風船はあり、全ての紙風船を破壊するとボーナス30ポイント獲得だ。
紙の刀を何本使うかは、試合前に審判に申告すればよい。
というわけで俺の一試合目。相手は普通の男子生徒だ。
俺は紙の刀を両手に握り、中段に構える。相手も中段の構えだ。
相手が切りかかってきた。これは右二の腕の紙風船を狙っているな。
なまっちょろいぜ! こっちはロザリオ事件で相当動体視力が鍛えられてるんだよ!
俺は右二の腕の紙風船を犠牲にして、相手の頭と右太ももの紙風船を破壊する。これが肉を切らせて骨を断つってやつだ。
さあさあこのまま背中に回って紙風船を潰してもいいが、せっかくだから他のも全て潰してやろう。こいつなら全部破壊できそうだ。
相手は完全に狼狽している。今がチャンスだ。
俺は頭の紙風船を割らせて、右肩と左太もも、右ふくらはぎの3つの紙風船を破壊する。
エースに身体能力を強化してもらったときの感覚を思い出すんだ。
脳は騙したもん勝ち。あの感覚で体を動かせば、きっと誰にも負けない。
俺は相手の背中に回り込み、左肩、左ふくらはぎ、腰の紙風船を破壊した。
そして背中の紙風船を突き刺してフィニッシュだ。130ポイントゲットだぜッ!
正直余裕だったが、いい準備運動にはなったな。
同時に行われた亮二と篝もどうやら勝てたようだ。
一試合遅れて行われた薄男の試合を亮二と篝で見てたんだが、3人で笑い転げてしまった。
薄男は避けるのだ。紙のように薄い体を利用してすべての攻撃を避けるのだ。避けて避けて避けまくり、相手の隙を逃さず背中に回り込んで紙風船を潰す。強い。強すぎる。
さすがKKK――カミ回避清瀬の名は伊達じゃないな。ドッチボールで彼にボールを当てた者や、鬼ごっこで薄男にタッチした者はいないことから、そのような名前が付けられたのだという。ちなみにカミというのは、神と紙の掛詞である。
そんな薄男の避けに対して、攻めが強すぎる男が現れた。
長い白髪と長い白髭のあの老人――そう、四皇が1人、爺さん目白である。
爺さん目白の試合は一瞬で決着が着く。
まず爺さん目白は柄に手を当てては目を瞑る。そして次の瞬間には、すべての紙風船を破壊した状態で相手の背後にいるのだ。もちろん自分自身は無傷で。
動体視力には自信のある俺でさえ、その速業を目で追うことはできなかった。
俺、篝、亮二は薄男と爺さん目白に負け、そして迎えた最終試合。
薄男VS爺さん目白。俺たちは3人で観戦することにした。
――ゴーン!
試合開始のゴングが鳴り響く。
薄男は八相の構えを、爺さん目白は居合の構えを取る。
爺さん目白が目を瞑った。来るぞ! あの速業がッ! 薄男は避けられるのか!?
そう思った矢先、薄男と爺さん目白が鍔迫り合いをしていた。
薄男は反転し、爺さん目白は先ほどの位置から移動している。
まったくよくわからないが、薄男は爺さん目白の攻撃を避け、背中を狙った攻撃に対して素早く後ろを振り返り、受け止めることができたようだ。
「さすがに読まれたか」
爺さん目白はそう言ってバックステップし、薄男から距離を取った。
たしか爺さん目白の第六感は世界でもトップクラスのものらしい。第六感はただの直感であって特殊能力ではないため、使用しても違反にはならない。
すると爺さん目白は霞の構えをした。
「アレでダメならコレでゆく」
薄男も再び八相に構える。
「はあッ!」
瞬間、薄男が姿を消した。
「なに……消えただと!?」
爺さん目白は目を丸くする。
そして、
――カンカンカーン!
決着がついた。爺さん目白の背中の紙風船が割れている。薄男が勝利したのだ。
そして薄男はなぜか床から現れる。何が起こったんだ? 今の一瞬で。
モニターにスローモーションで映像が再生される。
爺さん目白は薄男の頭の上の紙風船を狙って突きを放った。薄男はそれを避け、爺さん目白は突きの勢いを利用して薄男の後ろを取る。
スローモーションにも関わらず薄男は消えた。いや、消えたのではない。隠れたのだ。床に。
――床に隠れる――
最初はパワーワードに聞こえるが、薄男にとってはパワーワードではない。
薄男は体とカゲが薄すぎるがゆえに、床に伏せるだけで隠れることができるのだ。床に隠れた後は、カレイのように華麗に爺さん目白の背中の紙風船を潰したのだ。
「このわしが……負けたのか」
爺さん目白は片膝をついてつぶやいた。
To be continued!⇒
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