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第81話 エース

■隆臣


「私は隆臣くんのガイストとして力を貸す。隆臣くんは私が成仏できるよう手伝う。これが契約の内容だよ」


「ああ」


「それじゃあ、今から契約するよ」


 そう言って一夏は俺の胸に手を当てた。小さくて温かい手だ。

 一夏の体が青白く光り始め、やがて青白い光の塊になり、俺の胸の中に入り込んできた。瞬間、俺は胸の中で一夏を感じた。


 ――隆臣くん、気分はどう?


 頭の中に直接声が聞こえてくる。


「普通だ」


 ――それはよかった。気分を悪くさせないか心配だったんだよ。じゃあ実体化してみるね!


 一夏がそう言うと、俺の中からすっと何かがなくなり、目の前に青白い光に包まれた一夏のシルエットが現れた。少しずつ光が弱くなり、一夏の姿が顕になった。


「きゃっ」


 一夏はバランスを崩して転びかけた。俺はとっさに手を伸ばし一夏を抱きかかえる。


「ご、ごめん……脚、治ったかと思ってたよ」


 笑いながら一夏は言い、すぐに浮遊した。


「一夏のその脚を治したい」


 俺は思ったことをそのまま口に出した。


「いいよべつに。私浮遊できるし」


「地面を踏んで歩いて欲しいんだよ」


「でも私、病気なんだよ? 怪我ならともかく」


「そういえばガイストは使い手の体内由来の魔力粒子を消費することで、怪我を治癒することができるんだよな? それなら病気も治せるんじゃないか?」


「それは無理だよ。ガイストはあくまでも生前の霊魂。生まれつき脚が悪かったらずっと脚が悪いままなんだよ」


「そっか」


 でも俺は諦めない。


「まだ一つだけ、方法があるかもしれない」




 俺たちは蒲田駅すぐ近くの雑居ビルに訪れた。


「おお隆臣」


「こんにちは」


 天パのじいさんがそこにいた。


「そっちの女の子は……ガイストだね?」


「はい。一夏って言うんです。よくおわかりで」


「このメガネを着けているからな」


「なんすかそれ」


「これをかけるとね、魔力粒子が目に見えるんだよ」


「新しい魔法マテリアルですね」


「まだ試作品だがな。てかそれ以前に、その子浮いてるしね」


「あ、そっか」


 このじいさんの名前は片瀬かたせ宏光ひろみつ

 魔法マテリアルの開発者で、来年開設予定のマリーンエデンのプロジェクトチームの1人でもある。

 俺は彼を博士と呼んでいる。小さい頃から父さんに付き添って、度々お世話になったからな。

 博士はメガネを着けかえて、


「それで、今日は何の用だ?」


 と。


「一夏の脚を治してほしいんです」


 俺は真面目に言った。

 博士は俺の隣でふわふわ浮いている一夏の脚を見つめて、


「俺は医者じゃねーぞ」


 当然のことを言った。


「まあ医者に行っても、ガイストの持病は治らんがね。ただし、たった一つだけ方法がある」


 俺と一夏は唾を飲み込んだ。


「単純だ。筋肉をつけろ」


「き、筋肉?」


 驚いた一夏が聞き返す。


「その脚はもうどうにもならん。脚をちょん切っても、またその脚に再生される。なら筋肉を付ける以外に方法はないだろ」


「でも私、病気だから筋肉つかないんじゃ?」


 博士は薬が大量に収納されている棚を漁りながら、


「君は人間じゃない。ガイストだ。ガイストならばできるのだよ。ガイストは霊魂が体内由来の魔力粒子に憑依したもの。言ってしまえば魔力粒子そのものだ。つまり、魔力粒子を操作すれば、ガイストの体を調節することができる」


 と言って、薬の束を取りだした。


「これを飲めば筋組織を魔力粒子で作り出すことができる。でも毎日飲まないとダメだよ。すぐに修復されて元の脚に戻っちゃうから」


 一夏は頷いて薬の束を受け取った。


「最初のうちは筋肉をつけないといけないから、毎日筋トレをするんだよ。あと、薬が足りなくなったらいつでも蒲田までおいで。薬用意して待ってるから」


「うんっ!」


 一夏は元気に返事した。

 このじいさんのところに来て正解だった。さすがは博士だ!


「おいくらですか?」


「10万……本来ならな。でもお前の父さんにはいつもお世話になってるし、今回も今後も特別にタダだ」


「ホントっすか!?」


「本当だとも。ただし! 次来るときにはみやげもんの一つは持ってこいよ」


「わかりました」


 博士めっちゃ優しいやん! 本当に感謝しかない!




 俺の父さんは元MMO隊員で現在は警視庁の公安部に所属している。詳しい話は教えてくれないからよく知らないけどな。

 母さんは専業主婦で妹は中学生だ。そんな家族に俺は自分がガイスト使いになったことを伝えた。

 父さんは無言で母さんは歓迎しないムードで緋鞠は俺を気持ち悪がった。

 家族全体としては、一夏を客人扱いする感じで、新しい家族として振る舞う感じではなかった。

 たしかに、赤の他人が急に家族になったらみんな驚くよな。しかもタイミングがタイミングだ。ひいじいちゃんが死んでまだ10日くらいだし。

 でもそれは最初だけだ。きっとみんな一夏を受け入れてくれるはずさ。

 母さんは一夏の分の飯は作ってくたが、一夏と顔を合わせようとはしなかった。緋鞠に関してはなぜか俺をめっちゃ睨んできたし。




「隆臣くん! ガイストとしての私に新しい名前をちょうだい?」


「名前? 一夏のままじゃダメなのか?」


「たしかに私は一夏だよ。でもこの体は隆臣の魔力粒子だから、私は半分が一夏でもう半分が隆臣くんなんだよ。つまり今の私は一夏じゃない。だから新しい名前が欲しいなって思ったの」


 なるほどな。断る理由は皆無。ではご要望にお答えするとしよう。

 しかしいざ名前を考えるとなると、全然わからんもんだよな。一夏だろ? ちょっとくらいは関連付けたいんだよな。

 一と夏か……。

 一子かずこ? いや昭和かって!  

 夏美なつみ? でも一夏は夏美って顔はしてないよな。

 うーん。俺は部屋を見渡す。

 小説や漫画の本、机にデスクトップPC、ルービックキューブにトランプ。


「トランプにちなんでエースなんての変だしなぁ」


 俺が頭を悩ませていると。


「それいい!」


 と、一夏は満面の笑みで言った。


「え?」


「エースって名前、素敵!」


「マジで言ってる?」


「マジだよ! だって一夏だし、エースも1だし!」


「一夏がいいならいいと思うけど」


「私はすっごく気に入ってるよ!」


 俺としてはもう少し考えてあげたかったけど、一夏がそう言うなら、


「そっか。一夏、お前は今日からエースだ。改めてよろしくな」


「よろしくね、隆臣くん!」


 ニコニコエース、すっげーかわいい。



 To be continued!⇒

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