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第79話 一夏とひいじいちゃん

■隆臣



 ある日突然、俺の目の前に白いノースリーブのワンピースを着た小さな女の子が現れた。夜空色の髪の毛と空色の瞳は非常に美しくとてもかわいらしい顔立ちをしている少女だ。

 少女は、


「やっと見つけた」


 と言って俺に抱きついてきた。そしてそのまま頭をなでなでしてくる。なんだこいつ!

 でもすっげー落ち着く。自然と力が抜けていく。


「力を貸しあげる」


 少女は呟いた。


「お前には力があるのか?」


「あるよ。君の心の穴を埋める程度の力はね」


「心の穴……か」


「うん」


「お前、名前は?」


「名前……? 生前の名前は一夏いちかだよ?」


「一夏……かわいい名前だな。てかなんだよ生前って。それじゃあまるで……」


「うん、私はとっくに死んでるよ。成仏できないただの霊魂。人の心の穴に入り込んで、第二の人生を送ろうとするひどーい悪霊だよ」


「なあ、もう一回顔を見せてくれよ」


 俺が頼むと少女は顔を見せてくれた。


「全然悪霊じゃねーじゃん。だってかわいいもん」


「え!? え!?」


「かわいい悪霊なんていねーよ」


「……ども」


 少女は顔を赤くした。かわいいな。


「もっとお前のことを教えてくれ」


「知りたいの? 私のこと」


「ああ。俺とお前、似ている気がするんだ」


「似てる?」


「お前だって心に穴が空いてんだろ?」


「そうだね。だから成仏できないんだと思う」


「成仏したい?」


「わかんない」


「何だよわかんないって」


「だってわたしは、きっと地獄行きだから」


「地獄が嫌なら今から天国行けるようがんばれよ」


「そんなことできるかな?」


「わからん。わからんけどやるんだよ。行けるかもしれないんだから」


「なんか私、逆に励まされちゃってるよ」


「気にすんな。お前も誰かに励まして欲しかったんだろ?」


「ち、違うよ! 私は人の傷心に漬け込む悪霊で……」


「だーかーらー悪霊じゃないって。これからは自分を悪霊って言うのはやめろ」


「じゃあ私は何?」


「知らん。それくらい自分で見つけてみろよ」


 俺がそう言うと、少女は無言でほっぺたを膨らませた。


「ねぇねぇ、私のこと教えてあげるからさ、君のことも教えてよ」


 少女は俺の隣に座って来た。


「おう、別にいいよ」


「じゃあ交互に質問し合お?」


「わかった」


「じゃあ私からね。君の名前は?」


「品川隆臣」


「うん、知ってる」


「じゃあなんで聞いたんだよ」


「だって私たち初対面じゃん。自己紹介くらいしないとさ。はい、じゃあ隆臣くんの質問どうぞ」


「お前はどうして死んだんだ?」


 少女は俯いて、


「空襲だよ。第二次世界大戦の」


「え?」


「私、足が悪かったから」


「そうだったのか」


「うん。私のせいで家族みんなの疎開が遅ちゃって、私たちは1945年3月10日の夜間空襲で全員死んじゃったの。家族まで空襲に巻き込んでしまったこと……それが私の未練――心の穴なのかな」


「そっか……」


「今は幽霊だから、足が悪いとか関係ないんだけどね。浮いてるから」


 少女を改めて見てみると、たしかに少し浮いている。

 しかしその足は、不自然すぎるほどに細い。病気だったんだな。


「幽霊になれて本当によかったよ。こうやって自由に動き回れるんだからね〜」


 少女はニコニコ笑いながら言って、ふわふわ辺りを浮遊する。


「お前、85年間何してたんだ?」


「ずっと君を探していたんだよ」


「どうして俺なんだ?」


「君のひいおじいちゃん――品川和正かずまさは私の婚約者だったから」


「マジで?」


「うん、マジでだよ。和正くんは長崎県に家族と一緒に縁故疎開してたから、無事だったの」


 婚約者だったのか。ひいじいちゃんの。たしかにひいじいちゃんもそんな話をしてくれたような……。


「お前はひいじいちゃんが好きだったのか?」


「大好きだったよ」


「会いたい?」


「まだ生きてるの?」


「重篤だけどな」


「お願い会わせて!」


「わかった。ひいじいちゃんはいつ死んでもおかしくない。明日は待っていられないかもな。だから今から行くぞ。ついてこい」



 To be continued!⇒

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