第77話 蘇る凪子の呪縛とスーパー陰キャ
■隆臣
10対3。固定砲台矢田のサーブ。デブメガネ矢田の全体重が乗せられたジャンプサーブの威力はすさまじく、相手はレシーブをコントロールすることができていない。
「う、腕が痛てぇ……。あいつのサーブ、マジでやべぇ」
矢田のサーブは猛威をふるい、10対8と点差が2まで縮まった。
しかしここで矢田のサーブが初めて乱れてしまい、11対8で相手にサーブ権が移動してしまう。
先ほどまでは手を抜いていた相手チームも、さすがに危機感を感じたのか、ジャンプサーブに切り替えてきた。
ボールは一直線に篝に飛んでいき、顔面に直撃。
「大丈夫か篝」
薄男は駆け寄る。陰キャスクワッドの人たちも心配そうに篝を見つめている。
「あああああああああああ!」
すると突然、篝は発狂したかのように叫び出した。
「この感覚……凪子さんか!? ああ凪子さん、こんなところにいたんですね。まったく心配しましたよ」
篝はそばに落ちていたバレーボールを抱きかかえて、そんなことを言い出した。
「お前何言ってんだよ!」
「さあ薄男! おまえも凪子さんゲームしようぜ!」
「え? ちょ」
篝は薄男の顔面に向かってボールを投げつけた。
すると薄男は、
「うぉおおおおお! 凪子さんゲームやるぞぉぉおお! お前らさっさと位置につけ!」
急にチームを仕切り始めた。
「おめーらもだよ! なにぼさっと突っ立ってんだ!?」
相手チームにもキレだす薄男。
俺は悟った。バレーボールが頭に直撃したことにより、さっき消したはずの凪子さんの呪縛が復活してしまったのだ。
せっかくのいい流れがこれでまた止まってしまう。
そう思った俺がアホだった。
相手チームの高速ジャンプサーブ。今までならば亮二くらいしかレシーブを成功させることができなかったが、篝に飛んできたボールは綺麗に打ち上げられた。
「薄男!」
そう、篝がレシーブを成功させたのだ。篝に呼びかけられた薄男はやさしくトスを上げる。
「亮二!」
そしてこの中で唯一まともに動ける亮二がスパイクを放つ。陰キャチーム初の三段攻撃だ。
そんな光景に少し驚いたようだが、相手チームはしっかりレシーブをし三段攻撃を返してくる。
だが薄男はボールを落とさない。滑り込んでサイドラインギリギリのボールを拾う。
篝は懸命にトスを上げ、亮二に繋ぐ。亮二は強烈なアタックを放つ。
なんだなんだ? 急にバレーボールらしくなってきたぞ! 見てておもしろい。
――ピー!
こっちに点数が入った。すごいぞ! 亮二と篝と薄男以外何もしていなかったけど。
ガリノッポのサーブ。しかし力不足で、ボールはネットに当たって跳ね返ってくる。
相手も珍しくサーブを失敗。
デブハチマキのサーブ。しかし力余剰で、ボールは奥の壁に当たって跳ね返ってくる。
「ぬぉおおお!」
デブハチマキがいきなり叫び出した。
なにごとか、と俺たちは視線を送る。
「陰キャをなめるな! たしかに陽キャは元々が強い。だが陰キャは戦いのうちに強くなるのだ。そして最終的には陽キャを超え、陽キャを殲滅する……それが真の陰キャなのだッ! 今見せてやる! 陰キャの底力をッ! うぉぉぉおおおお!」
「ぬぁぁぁああああ!」
な、なんだ!? ガリノッポとデブハチマキの体の周りに陽炎のようなものが発生しはじめた。気だ。気を高めているのだ。
目の色が緑になったかと思うと、髪の毛と眉毛が金色に染まった。気も金色に変わっている。
その光景を見た矢田は、
「ようやくなれたのか……」
と、目から涙を零しながら言った。
「ではそろそろ、俺もなろうか……スーパー陰キャにッ!」
矢田の髪の毛と眉毛が一瞬のうちに金髪に変わった。
そして、
「お見せしよう。真の陰キャの力を」
と、大声で叫んだ。
相手のサーブ。さっきまでザコい動きばかりしていた陰キャスクワッドの3人。
しかし、今は違った。まるで別人だ。
超機敏な動きは、バレーボール部ではないかと疑ってしまうほど。
そして陰キャスクワッドの3人で三段攻撃をかます。レシーブとトスもかなり正確で、スパイクも超強烈だ。相手チームが取れないほどに。
「な、なんなんだこいつら! いきなり覚醒したぞッ!」
「やばい! もっと本気でやるぞ!」
しかし敵チームの本気は、凪子さんの呪縛にかかった亮二、篝、薄男、スーパー陰キャになった矢田、ガリノッポ、デブハチマキには遠く及ばなかった。
To be continued!⇒
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