第72話 一種目めパン食い競走 下克上システム
■隆臣
俺たちの一種目め卓球――投了。
「ぬぁ〜つかれた〜!」
「いてて……」
身も心も疲れきっている俺と、凪子さんのスマッシュにより赤く腫れた頬をさする亮二。
そしてどこからか持ってきたバレーボールで、
「うぇ〜い! 凪子さーん!」
と言ってアンダーハンドトスをする篝。
「ってお前! 凪子さん飛ばしすぎィ! 危ねぇ、なんとかキャッチできた。凪子さんが地面に落ちたらどうすんだよ! 傷ついちまうだろ!」
と言ってバレーボールを大事そうに抱える薄男。
「す、すまねぇ。ちょっと力加減を誤った」
一体こいつらには何が見えているのだろうか?
これがCoCなら間違いなくSANチェック入るレベルで、俺は世にも奇妙な光景を目の当たりにした。
俺はギリギリ発狂せずに済んだが、
「ぬぁあああああああ!」
亮二は一時的狂気に陥ってしまったようだ。
どうやらこのおぞましき光景が、亮二の正気度を上回ってしまったのだろう。
「2人とも〜ん! 俺も凪子さんやりた〜い! 仲間に入れておくれ〜!」
「イーヨ!」
「んじゃ行くぞ〜! そらッ!」
ああ、そうだったのか。こいつら全員狂気になってたのか。ならしゃーなしだな。
俺は全員の頬を殴りつけ、正気に戻した。
■凛
わたしはとりあえず、同じ緑組のジョーカー、七海ちゃん、四谷ちゃんと行動をともにすることにした。
ちなみにわたしとジョーカーはツインテールで、七海ちゃんと四谷ちゃんはポニーテールで髪の毛をまとめている。
「一種目めは何にしよっか?」
わたしはみんなに尋ねる。
「うーん」
あごに手をあてて考えるジョーカー。
「やっぱあれでしょ!」
「うん、いいね」
七海ちゃんが指さす先には、パン食い競走の看板があった。四谷ちゃんも乗り気だし、
「うん! じゃあ今年も一種目めはパン食い競走にしようっ! ジョーカーもいいよね?」
「ええ。もちろん」
ジョーカーも賛成してくれたから、わたしたちはパン食い競走会場に向かった。
■凛
パン食い競走のルールは、30メートル先に吊るされているパンを咥え、さらに20メートル先にあるゴールを目指すというものだ。
ポイントはゴールした順に30、20、10、0、-10、-20……となる。
ただし、難易度はわたしたち初等部生にとってはかなり高い。なぜなら、わたしたちは高等部生のパン食い競走の列に並んでいるからだ。
パンは高等部の生徒向けの高さに設置されているため、完全高等部有利に思われるが、初等部のわたしたちがここに並ぶにはれっきとした理由がある。
それは下克上システムだ。下克上システムとは、例えば初等部の生徒が中等部の生徒に試合で勝ったとする。そうしたらその際の獲得スコアが2倍になるというものだ。中等部の生徒が高等部の生徒に勝った場合も2倍で、初等部の生徒が高等部生徒に勝ったのなら3倍になる。
だからわたしたちはここに並んでいる。たくさんポイントを獲得するために。
ちなみに、100点取るたびにお菓子がもらえるんだよ。うれしいよね。おいしいもんっ!
「おいおい、こいつら下克上狙ってんのか? 舐められたもんだなぁ」
「おいチビども! 高等部生の怖さを思い知らせてやるッ!」
「おチビちゃんたち? こっちは大人の領域だよ〜ん? ションベンくせーガキァガキどうしで遊んでろっつーの」
うぅ、高等部のお兄さんお姉さんは怖いよぅ。なんでそんなにわたしたちをいじめるの! ひどいよ!
わたしは懸命に笑顔を作った。じゃないと泣いちゃいそうだから。そんなわたしを見て、ジョーカーは前に出た。そしてリーゼント頭のお兄さんの頭めがけて回し蹴りをかます。
しかし、
「おっと危ねぇ。なかなかはえ〜蹴りだなぁ〜」
「くっ!」
リーゼントさんは右手でジョーカーの蹴りを受け止め、
「いたっ! 離しなさい!」
ジョーカーの足首を強く握りしめてジョーカーを痛みつけた。
「おっとと! 強く握りすぎちゃったね〜ごめんね〜」
「あんた絶対ボコしてやるわっ!」
涙目でジョーカーは言い放った。
「やれるもんならやってみな」
■凛
試合が始まった。
走者はわたしたち4人とリーゼントさん率いる高等部生3人の計7人。
「くっへへ! ガキどもに食わせるパンはねぇ〜。そうだろぉ?」
「おうとも!」
「おチビちゃんはまず牛乳飲むんだよぉ」
無視無視! こんな人たちに耳を貸しちゃだめだよ!
「ではこれよりパン食い競走を始めます。不正のないようにお願いします。では位置について……」
そう言って審判はスターターピストルを空に向けて構える。
「よーい!」
――バンッ!
To be continued!⇒