第68話 ラナ・クロウ
大変遅くなりました!
■隆臣
波瀾の大食いバトルは引き分けに終わり、結局参加者全員に学食半額券が配布された。
当の番人と仙人も、互いを認め合い、固い握手を交わしていた。
正直大食い観戦なんてつまらないと思っていた。けど実際は違った。おもしろいのだ。色々ぶっ飛んでて。
そして俺はようやく理解し始めていた。この学園は異常だが、その異常さがなぜか魅力的だということを。
■隆臣
魔術学園には寮がある。学園の約3割が寮生で、そのほとんどが地方出身者だ。
俺は実家が横浜なので、横浜から通うことはできたが、一人暮らししたかったし、母さんも父さんもそれを許可してくれたので、俺は田町にアパートを借りて、そこから毎日学園に通っている。
なんで寮にしなかったかって? アパートを借りた方が安いからだよ。圧倒的に。
だって俺のアパート、いわく付きなんだもん。座敷童子が出るっていう。
でも俺は座敷童子なんて怖くない。相棒が守護霊みたいなもんだからな。
1ヶ月ちょっとそのアパートで暮らしているが、座敷童子なんて一度も見てない。
しかし、23時過ぎの俺部屋には何かがいた。
「んお? お前がシナガワタカオミか?」
俺とエースの目の前には、きのうエースが作ってくれたクッキーをボリボリと食べる、カラスを思わせる黒ずくめのロリっ子がいた。もちろんかわいい。
「誰だお前」
俺は尋ねる。
「Ciao! われは特級の魔女ナディアの使い魔だ。名はラナ」
「ナディアの使い魔?」
「うむ。今は変化の術でヒトの姿に変身しているのだ」
「で、クッキーおいしい?」
「とってもおいしい!」
「今度からは勝手に食べないでね。あと無断で人の部屋に入るのもダメだよ」
魔術学園に入学してからというもの、異常事態の多発でもはや異常なのが日常となってきたので、かわいいロリっ子による不法侵入の1つや2つくらいではもう驚かないぞ。
「わかった!」
こいつわかってないな。まあいいや。
「で? 何しに来たの?」
俺は優しく問う。
「今日はナディアから言伝を預かってきたのだ。ええっとなぁ……」
ラナという少女の話によると、マリーノファミリーは崩壊して残党は次々に逮捕され、職を失ったクリスをナディアが工房で雇ってやっているんだという。
そしてラナは最後に、
「あとねー、カンダミョージンの本殿の地下の現状を報告して欲しいんだって」
と。
「そんなことならおやすい御用よ」
「朝飯前すぎィ!」
俺とエースは即依頼を受諾した。
「って、たったそんなことを伝えるために、わざわざ日本に来てくれたの?」
「実はね、フォルコメン星級の魔女アイラ・ハンプトン=ローズが事象予知で、東京で大事件が起こる未来を予知したの。でね、ほんとはね、ナディアも状況調査に来たかったんだけど、ナディアは仮面舞踏会があってどうしても外せないから、先にわれが来たのだ」
「そうだったんだ」
ラナは一生懸命に答えてくれたが、魔法歴1ヶ月ちょっとの俺にはよくわからない単語だらけだ。フォルコメンステラって何? アイラ・ハンプトン・ローズって誰? 事象予知って? カーニバルって何だよ。
「伝えることは伝えたし、かーえろっと!」
ラナはそう言って、ほっぺたとかくちびるにクッキーのカスをつけたまま立ち上がったので、
「ちょ待て」
俺はウェットティッシュでラナの口周りを拭いてあげた。
「はい。これでオッケー」
「んお? Grazie!」
ラナの身長はエースより少し小さいくらいか。俺が膝を着いたら目線が同じくらいの高さだ。
「んじゃ! Arrivederci!」
玄関から外に出たラナがそう言うと、一瞬の眩い光とともに目の前からラナが消えた。代わりにカラスがいる。これがラナの本来の姿か。
ラナはこちらを向いて一度カーと鳴くと、翼をはためかせて空に飛び去っていった。
To be continued!⇒
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