第67話 決着! 仙人VS番人
遅くなりました!
■隆臣
椿先生は気づいた。その素晴らしき観察眼で。
周りから見れば、仙人と番人は普通に食べている様に見える(普通とは一体……)が、実はそうではなかったのだ。
実は2人とも、ある大技を使用していて、その名も――、
『FPS!』
『えふぴーえすぅ? よく聞く言葉ではありますが、一体どのような技なんですか?』
叫んだ椿先生に、副会長は尋ねた。
『FPS――フードピースセレクトは万能だけど、最高難易度の技なの。食べ物を胃に落とすときに、できるだけ積み重なる高さを低くするために落下する位置をコントロールする技なのよ!』
それはいくらなんでも無理やりスギィ! テトリスかよ! なんなんだよ! まあ、メガフェプスよりはマシだと思うけど。
いやー、にしてもほんとにこいつらは格が違う。胃袋のサイズも規格外だけど、その戦法も誰もが予期せぬものだ。
これまで仙人も番人も全く同じ数だけお代わりしている。
2人の食べる能力はほぼ互角だ。
しかし同時に迎えた四杯目――地獄ラーメン。
辛いのが超苦手な仙人にとっては、かなり不利な状況だ。しかし、仙人の表情は変わらなかった。
辛いのを我慢して根気で食べ続けているのだ。
2人ともこの日のために日々トレーニングに励んできたのだろう。絶対に負けられないよな、自分に投票してくれた人たちのためにも。
■隆臣
番人と仙人は様々な技を駆使し、その都度椿先生が解説する。やがて試合は終盤にさしかかった。
「クッ! 仙人め、辛いものを克服しやがったのか!?」
尚子は親指の爪をかじって言った。
『残り1分です!』
『こっからが見どころよ』
副会長の残り時間コールを聞いて、番人と仙人の箸の動きが止まった。
いや、止まってなどいなかった。むしろ速い。速過ぎて止まって見えるのだ。
『UK。それはウルトラ吸引と呼ばれるラーメンのすすり方で、先代から代々継承されてきた伝統の技。ラーメンフードファイトの中で最もポピュラーにして最も汎用性が高く、最も難易度が高い技』
椿先生はそう説明した。
2人の吸引力はダイソンにも匹敵するといわれているらしく、吸引力も変わらないんだとか。
だから歩く掃除機とも呼ばれているという。そんな2人は最後の最後でそんな大技を使ってきたか。
――ズルズルズルズルズル
すさまじい肺活量を全力で使って麺をすする。すすりまくる。
これは非常に疲れる技らしいので、あまり長く使えないから、最後に持ってくるのが定石なんだとか。
刻一刻と制限時間が迫る。
――うぉー!
会場は今日一番の盛り上がりを見せている。
――カンカンカンーン!
試合終了のゴングが鳴った。仙人と番人が同時に箸を置くと、更に歓声が大きくなった。
2人ともたった30分で15杯を平らげ、16杯目に到達していた。
なので実行委員2人が仙人と番人のラーメンどんぶりを回収し、計量を実行した。
場の空気が張り詰める。計量により全てが決まるからだ。
3つ隣の見知らぬ生徒の唾を飲む音すらはっきり聞こえるくらいの静寂が流れる。
実行委員から封筒を受け取った副会長は、ゆっくりと封を開け、
『今回の対決ッ! 3ミリグラム差で番人の勝ちですっ!』
と。
――うぉー! ばーんにん! ばーんにん! ばーんにん!
鳴り止まない番人コール。番人もご満悦。
そんなこんなで終わろうとしていた学食の仙人と学食の番人によるフードファイト対決。
しかし、あるものが投じた一石により、事態が急変した。
「番人のれんげに入っているすーぷは計量したのかね?」
騒がしすぎた会場内にかわいらしい声が響いた。全観客が鈴のような声の主に視線を送る。
そこにいたのは浴衣を着た幼い女の子で、頭からは狐のような耳ともふもふな尻尾を生やしている。めっちゃかわいい!
「審査は厳粛にやるものじゃろ? 早う再計量せい」
と言った狐耳幼女に対し、
「は、はい! かしこまりました!」
女の子の一言で実行委員はそそくさと番人のレンゲに入っていたスープの分まで足して再び計量をはじめた。
てかこの狐耳幼女……一体何者なんだ? この学園の生徒なのか? あとで尚子に聞いてみよ。
しばらくして、副会長は再び封筒を受け取り、開封して中身を確認した。
そして、
『ななななんと! 両者まったく同じ重さです!』
一瞬、時が止まったように静かになった。
2人とも同じ重さってことはつまり……、
『結果は……ひ、引き分けです!』
副会長が叫んだ。
『これは……前代未聞だわ! こんなことがあるなんて!』
椿先生も驚愕している。
To be continued!⇒
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