第65話 魔術学園体育祭前夜祭
話は少し遡って――俺たちが詩葉に出会う約1週間前のこと……。
■尚子
今日は東京魔術学園体育祭の前日だ。
「ついにこの日が来たか……」
私は生徒会室の自分の席に腰を掛けながらそうつぶやいた。
「会長、準備出来ました!」
「おう」
そんな私に声をかけたのは、長い髪の毛をミッキーマウスの耳ように丸めてお団子にした、副会長の下総くるみ。小動物っぽくてかわいいやつだ。
「そんじゃあ行くか!」
■隆臣
東京魔術学園の体育祭は、火曜日から土曜日までの5日間で行われ、月曜日は前夜祭となっている。
桜田樹大会実行委員長や高等部生徒会長である尚子の話、亀有人志理事長の話、高等部の野球部主将とバレー部主将による選手宣誓が行われ、そのあとにみんなお待ちかねの名物企画が始まる(らしい)。
■隆臣
魔術学園第一野外競技場にて、
『第30回! 学食の仙人と学食の番人によるフードファイト対決ゥゥウウウ!』
副会長の下総くるみが叫んだ。
――うぉぉおおお!
祭りが始まった。
「さぁ始まりました! 年に一度のビッグイベント! フードファイト対決っ! 実況は私! 下総くるみっ! 解説はぁ〜!」
「駒込・クリスティーヌ・椿でぇ〜っす!」
コレは自称18歳の35歳女性英語教諭であり、俺や尚子のホームルーム担任の椿先生だ。ちなみにあそび部の顧問でもある。
ただし、彼女はただの英語の先生ではない。
この学園の教員のほとんどは、このような生徒主催の企画に前向きに参加するのだが、その中でも彼女は抜きん出ているのだ。もはや生徒。
紹介が遅れたが、この企画は学食の仙人こと高等部1年の赤羽涼太と、学食の番人こと同じく高等部1年の吉祥慶介の大食い対決らしい。
学園内で仙人リーグと番人リーグの2つブロックの勝者が本戦に出場でき、赤羽涼太と吉祥慶介は各リーグの絶対的王者となっており、これまでの対決は互いに一勝一敗だ。
そんな大食い大会も今年で30回目。恒例行事である。
たかが大食い大会でどうしてこんなに盛り上がっているか。それにはちゃんとわけがある。
では、この大会のルールを説明しよう。
赤羽涼太と吉祥慶介による大食いバトルが始まる前に、観客はどちらが勝つか予想して投票する。
その後試合が行われ、勝者には学食の王という称号と、副賞として学食半年半額券がもらえるのだ。
そして、勝った方に投票した観客にも、一ヶ月間学食半額券が与えられるのだ。
おわかりいただけただろうか。これがこのイベントの一番の見どころなのだ。
そんなわけで始まった今回の大会は、番人が得票率56%と、前回覇者だけあって若干仙人を上回っている。前回覇者ってことは、中等部の頃から高等部の生徒に負けないほどの実力があったってことか。すごいな仙人。
「凛はどっちに入れたんだ? 俺は番人だけど」
「わたしは仙人ですっ! この日のために新しい必殺技を考えてきた、と新聞部の記事に書いてました! だから仙人には頑張って欲しいんですっ!」
凛はそう答えた。
確かに俺もその記事は知っていた。
しかし番人は、前回仙人に大きな差をつけて王座を奪還した男だ。彼に対する期待は非常に大きい。
「わかってないな凛」
と言ったのは、凛のななめ後ろに座っている尚子だ。
「今回の料理が何だかわかっているのか? 学食内のラーメン各種だ。その中にはもちろん、あの地獄ラーメンも含まれている」
「あ……」
凛は何かを悟り、
「仙人はたしか辛いのが苦手だった気が……」
と。
「ああそうだ。投票後まで料理は明かされないから、知らなくて当然だろう。だがこの企画は私たち生徒会が主催している。私はわかってしまっているのだよ」
「ってことは仙人が不利じゃないですか!」
「そうだ」
「ってことは学食半額券が貰えないかもしれないじゃないですか!」
「そうだ」
「ぐぬぬ〜っ! くるみちゃん先輩に聞いとけば……! わたしってばうっかりしてました! こんな簡単なミスをしてしまうなんてっ!」
「ふっ! ドンマイ」
尚子は凛を鼻で笑った。
「尚子、こんなところにいたのか」
その声は聞き慣れない。
声のする方を見てみると、そこには、目鼻立ちがよく、つやのある黒髪で巨乳な高等部の女生徒がいた。
「蘭か。桜田も一緒か」
答えたのは尚子で、どうやら面識があるらしい。
すると、蘭と呼ばれた高等部の少女が、
「やあやあ、君が品川隆臣君だね〜」
と言って俺に近づいてきた。妙に馴れ馴れしいな。さては陽キャだな?
「は、はい。そうですが」
蘭が上級生だと思い込み、敬語で答えてしまう俺に、
「まあまあそうかしこまるな。私も1年だ。気楽にいこう」
と。
すると、
「ごめんね、亀有さんってとっつきにくいでしょ」
優しそうな面立ちの男子生徒が話しかけてくる。
「僕の名前は桜田樹。一応あそび部の副部長で、体育祭の大会実行委員長。それから、亀有さんはこんなんでもあそび部の部長なんだよ……って! それより亀有さん! まだ自分で自己紹介してないじゃん! ちゃんとしなよ!」
「おっと、私としたことが忘却の彼方すぎたぜ。やあ転校生! 私の名前は亀有蘭! 尚子の従姉妹だ! よろしくな!」
何なんだこいつら。ノリがわからん。やはり陽キャだ。理解理解。
「お、おう。よろしくな亀有さん」
俺が応えると、
「うむ!」
亀有さんは満足気に大きく頷いた。
すると尚子は、
「とりあえず、飲み物でも買ってくるか」
と言って立ち上がった。
To be continued!⇒
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