第64話 逢いに来たよ
今日から第二部!
よろしくお願いします!
■詩葉
勉強も運動もそこそこにできるし、なにごとにも真面目に取り組む。
部活は帰宅部だが、3年間図書委員で、現在は図書委員長を務めている。
交友関係は決して広いというわけではないが、男女ともに友達はいるし、輝美という親友だっている。
特に好きな人がいるわけではないが、恋愛感情だってある。
私こと神楽詩葉は、どこにでもいるようなごく普通の女の子だった。そう、今朝までは。
放課後。
図書委員の仕事で輝美とは一緒に帰れなかった私は、大雨の中折りたたみ傘をさして家に向かって歩いていた。
風はそうでもないが、歩いているうちに雨水が靴に染み込んできてとても不愉快な気分になる。
そんな私の前に、何者かが傘をささずに佇んでいた。
視線を上げてその人物の顔を確認してみると、今朝の登校中にぶつかったあの女の子だった。
ムッとした表情で私の顔を凝視してくる。
「ど……ども」
なんと言ったらいいのかわからなかったので、とりあえず笑顔で会釈してみる。
体のラインがくっきり現れるライダースーツのようなものを着た少女は、左腕に取り付けられたディスプレイを操作しはじめた。
「あの〜?」
「……返して」
「え?」
「あれを返して!」
少女はそう言って私に飛びかかって押し倒してきた。
「……っ! なにすんの!」
「早く出せ! 今なら命だけは見逃してやるから!」
「だからなんなの!」
私は拘束から逃れようともがくが、少女の力がとても強くて適わない。
「絶対に逃がさないから!」
少女はそう言って太もものホルスターから拳銃を抜き出す。
私の額に押し当て、セフティを外してトリガーに手をかけた。
私はたじろいで声も出せない。
「はやく答えろ! 本気で撃つぞ!」
冷ややかに少女は言う。私は呼吸を荒くするばかりで、言葉が出てこない。
「ほんとのほんとに殺しちゃうんだからな!」
声を張り上げる少女。
いやだ! 死にたくない! 誰か助けて!
当然、白馬に乗った王子様なんて現れるはずもない。しかし何かが現れた。
私の心の中に何かが舞い降りてきた。
その証拠に、今の私はもう恐怖していない。
「そこをどけろ。さもないと痛い目をみるぞ」
誰かが低い声で言った。
「え?」
少女は私の顔をポカン見つめてくる。
「わたしの言っていることが理解できないのか? 小娘。そこをどけろと言っているのだ」
「え……? うぁ…………んく」
声の主の気迫に圧されて、少女は涙目で小さくなった。
「ちっ! 泣き虫かよ。これだからガキは嫌いなんだ」
と言って、私の体が私の意志とは無関係に、指一本だけで少女を私の体の上からどかして立ち上がり、
「詩葉に危害を加えることは許さん。今後このようなことがあった場合は覚えておけ。ただじゃあすまさんぞ」
と言って、転がっていたスクールバッグと折りたたみ傘を持って、私はその場から歩き去った。
■???
「な、なんなの一体……」
わたしはアスファルトの地面にペタンと座り込み、大粒の雨にうたれながらつぶやいた。
「あれ? 今のって今朝見た……」
わたしの耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。
そちらの方を見てみると、そこには今朝出会ったあの4人組がいた。
「隆臣……っ!」
白髪の少女が少年の袖をくいと引っぱると、少年はわたしに視線を送り、
「君は今朝の。どうした傘もささないで」
と言ってゆっくりと近づき、傘をさしだしてきた。
「それ使って帰れ。家に着いたらすぐに風呂に入った方がいいぞ。風邪ひいちまうからな」
わたしは立ち上がり、少年と目を合わせないように下を向いたまま傘の柄を掴んで、そのままものすごい速さで走り去った。
■???
東京大学医学部附属病院手術室。俺は肝がんの切除手術を行っていた。
そういえばそろそろ、リゲルの誕生日だよな。また解剖パーティーでもしたいな。最近全然人殺してないし。またどっかに殺しに行くとするか。きっと喜ぶだろうよ。
■詩葉
私は夕方にあったことをあまりよく覚えていない。
今朝出会った透明少女に襲われたのははっきり覚えているんだけど、それ以降がどうしても記憶が曖昧。
でも誰かが助けに来てくれたような気がしないでもない。
それは誰だろう? わからない。
だがそれは常に自分のそばにいて、自分を見守ってくれる存在のような気がする。
だからさっきのピンチでも守ってくれたのかもしれない。
守護霊……いや…………守護神?
私はベッドに横になってスマホをいじりながら、そんなことを考えていた。
■???
降り続く雨。ビルの森。忙しない人々。喧騒。水たまりで反射する街の光。夜の街を闊歩するドブネズミ。
廃ビルの最上階で、雨に濡れたままの服で丸くなりながら、目に涙を溜めるわたし。
左腕のディスプレイを再度操作するも、ERRORの文字が並ぶだけだ。
「ちくしょう。あいつのせいで……あいつのせいで! 全部空回りだ! とにかく明日……けほっこほん! ……くそっ!」
わたしは拳をギュッと握った。
「かあさん、とうさん……わたし、怖いよう…………」
To be continued!⇒
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