第61話 クリス、アリスの後日談
◾クリス
日曜日のミサの帰り、俺とダイヤは近くのレストランに立ち寄った。
「今日は何でも好きなの食べでいいぞ」
「……うん!」
ダイヤは目を輝かせて静かにメニュー表を眺め、
「これにする」
と、あるメニューを指さす。
「お、それにするのか。じゃあ注文するぞ」
俺が呼び鈴を鳴らしてしばらくすると、ウェイトレスの若い女が現れる。
「LLハンバーグとデカ盛りポテトとMマルゲリータで」
「かしこまりました」
俺はウェイトレスにそう注文をした。
ちなみにLLハンバーグとデカ盛りポテトはすべてダイヤが食べる。
ダイヤはこう見えても実は超々大食いなのだ。
料理が運ばれてくるまでしばらく時間がかかるので、俺とダイヤはドリンクバーで飲み物を、サラダバーでサラダを取ってくることにした。
いつものようにダイヤはメロンソーダを、俺はアイスミルクティーを氷を入れたコップに注ぎ、一旦席に戻ろうとする。
ダイヤは並々に注がれたメロンソーダを、こぼさないように慎重に席に運んでいる。危なっかしすぎる。手伝ってあげたいけど、ここはダイヤの成長こためにも我慢だ。
「ダイヤ、前!」
しかし耐えかねた俺の注意も及ばず、
――べしゃ
男の人にぶつかって、メロンソーダを盛大にぶっかけたしまった。
その男は祭服を着ていて、近くにはダイヤと同い歳くらいのシスターと思しき少女もいる。
祭服から判断するに、神父であろう男性は、ダイヤに怒ることなく柔和な表情を浮かべ、
「これは失礼。ちょっとよそ見をしていた」
と。
「……ごめんなさい」
ダイヤは俯いて小さな声で謝る。
シスターはポケットからハンカチを取り出し、神父の装束を拭きながら、
「まったくぅ……天誅ですよ天誅! むぅ〜」
まあるいほっぺたをぷっくり膨らませてダイヤを睨みつけた。
「そういうのはやめなさい、スピカ。私が悪かったのだ」
「えー、だって〜」
「だってじゃない。シスターにあるまじき態度だぞ」
神父はやさしくシスターを叱りつけている。
俺はすぐにコップを置いて神父とシスターのところに駆け寄り、
「すみませんでした! ってあれ?」
「いえいえ、大したことではございま……ん?」
俺と神父は互いに顔をじっと見つめ合い、
「あなたは……孤児院の?」
「君は2年前、うちの孤児を1人引き取った青年だね?」
「はい! お久しぶりです。ファーザーリッチ」
「しばらくぶりだな、青年よ。この子がダイヤだね。いやー、一瞬誰か分からなかったよ。ガイストだから身体的成長はないけど、精神面ではものすごく成長したからかな? 顔つきとか雰囲気とかが以前とはまったく違うんだよ」
リッチ神父とは、2年前――すなわちダイヤがまだ孤児として神父の孤児院に引き取られていた頃からの知り合いだ。
「私が思うに、つい最近、何か心を大いに成長させる出来事があったのかね?」
「まぁ、色々ありましたね」
「やっぱりそうなんだね。とりあえずこんな所で立ち話はやめておこう。私はいつも教会か孤児院の方にいるから、またいつでも遊びにおいで」
「はい。近いうちに」
「では、お先に失礼するよ」
そう言ってリッチ神父はスピカと呼んだシスターと共にレジの方歩いていく。
すると、
「あ、そうそう。神父として君たちに1つ忠告させてもおう」
と言いながらスマホでキャッシュレス会計を済ませながら、
「君たちの身近に悪魔がいるよ」
と。
「え? それってどういう」
「まったくそのままの意味だよ」
リッチ神父は片手を上げて立ち去ってしまった。
◾
警視庁は恵比寿勝警視正を本部長とし、ミンチ殺人事件特別捜査本部を設置した。
このミンチ殺人事件は史上最も残酷な殺人事件とされていて、犯人の特定及び逮捕が急がれている。
1ヶ月ほど前に始まり、すでに10回以上発生したミンチ殺人事件についてわかっている詳細は4つ。
1つ目が、これまでの事件は全て23区内で起きているということ。
2つ目が、司法解剖の結果、非常に鋭利な刃物で全身がほぼ同時に切り刻まれていること。
3つ目が、犯人は第九感に覚醒した超感覚覚醒者や第七感保持するチャネラー、第八感(同化)持ちのアシミレーターもしくはガイスト使いである可能性が高いということ。
4つ目が、犯人は老若男女問わず無差別に殺人を繰り返しているということ。
以上の4つのことがこれまでのミンチ事件で明らかになったことである。
捜査は停滞の一途をたどっていて、捜査本部はMMAと協力をするも、打つ手がないという状態がつづいている。
◾アリス
「はぁ」
MMA東京本部の休憩所にて、まだ魔術学園の制服を着た私は、依頼の資料を見つめながら、深いため息をついた。
(またこれか……)
ここ2週間のことだが、魔力濃度の上昇が魔法関連の事件事故の続発を招いている。
魔法等関連法や魔法取り扱い法、超能力管理法、ガイスト管理法などの抑止力はあるものの、ここ2週間の魔法や超能力、ガイストが関与する事件や事故の発生件数は留まることを知らない。
「ま、断る理由もないわ」
言いながら私はペンケースから黒いボールペンを取り出し、承認に丸をつける。
すると、
「あれ〜アリっち来てたんだ!」
私と同じく魔術学園高等部1年の奏や亮二、篝がMMAの制服に身を包んで休憩所に現れた。ちなみに今私に声をかけてきたのは篝だ。
「殺人か?」
これは亮二。
「ええ。例の事件よ」
私は亮二に書類を渡すと、3人は顔を寄せて書類に目を通す。
この依頼書類は警視庁からMMA東京本部に向けて発行されたもので、MMAは基本的には警視庁もしくは警察庁と連携して犯人の確保・逮捕に及ぶ。
一般からの依頼は一切受け付けず、一度警察を通してからでないとMMAは依頼を受理ことができない。
亮二、奏、篝は顔をしかめてそれぞれ、
「最初の事件から1ヶ月か……」
「そうだね。これで12回目だよ」
「この前の吸血鬼事件よりタチ悪いじゃん」
と。
「とりあえずこれ出して着替えてくる。話はその後からにしよう」
私はそう言ってカバンを持ち、亮二から書類をもらって休憩所を立ち去った。
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