表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/363

第59話 俺の思い

◾隆臣


 そんな空気をかき消すように、エースはつとめて明るく、


「そ、そうだ! 隆臣にプレゼントがあるよ!」


 と言って紙袋から黒い箱を取りだし、俺に突きつけてきた。


「プレゼント?」


「うん!」


「開けてみてもいい?」


「もちろんだよ」


 俺は箱の中からエースが買ってくれたプレゼントを取り出す。


「パ、パンツ!?」


「うん! 新しいの欲しがってたでしょ?」


 エースは何の悪気もない笑顔で言った。

 俺はかなり恥ずかしい思いをしつつ、


「お、おう。ありがとな」


 と、応えた。

 たしかに新しいパンツは欲しかったし、誕生日でプレゼントしてくれるのはすげーうれしいけどさ……。

 すると、


「俺らからはこれだ。夏休み期間の七泊九日ヨーロッパ四都市ツアーの旅券だ。受け取れ」


 クリスはギフト用の封筒を差し出してきた。


「悪ィな」


「俺たちは同じ死線をくぐり抜けてきた戦友だ」


 クリスの横でダイヤも親指を立てている。


「サンキューな」


 俺は短く答えた。

 続けて尚子とハートも、


「お前、料理好きだろ? 私とハートは、世界各地から超高級な食材を取り寄せた。気長に待っててくれ。2、3週間もすれば届くだろう」


「お肉いっぱいあるよ! 遊びに行くからいっぱいおいしいの作ってね!」


「2人もありがとう」


 後日になるがプレゼントを用意してくれているみたいだ。

 てかハート、それお前が美味いもん食いたいだけじゃねーか?

 クリス、ダイヤ、尚子、ハートの4人は、元々ファミリーの幹部で、 俺たちの命を狙っていた。

 しかし後に共闘して少しずつ絆を深めていき、その絆が互いの敵対心を超えのだろう。今はもう、不思議と互いに仲間だと思っている。


「私からもあるぞ。ほれ」


 と言って、黒いローブの内ポケットから小さな箱を取り出し、押し付けてきたのはナディアだ。


「それはお守りだ。私が使っていた魔力障壁展開術式の下位互換が施された代物だ。下位互換とはいっても十二分に効果は発揮してくれる。もしものために肌身離さず持っておけ」


 話を聞きながら蓋を開けてみると、そこには小さな十字架とメダイの付いたロザリオブレスレットがあった。


「おう、ありがとな」


 取り出してみるが、小さな銀の――おそらく魔力石と思われる綺麗で透き通った数珠が非常に女子っぽい。

 でもせっかくプレゼントしてくれたものなので、と俺は左手にそれをはめてみた。


(まあ、悪くはないか)


 思えばナディアとの出会いも特殊だった。凛の父・和也さんに呼ばれ、遥々ローマからやって来た魔術師であるナディアは、颯爽と現れ、俺とエースをジャックの不可視の攻撃から守ってくれた。

 その後ナディアが全盲であることを知った俺たちは驚愕し、それと同時に彼女の第九感のすさまじさを痛感した。


「……」


 そんなことを思い返していると、俺は服の裾をつんつんと引っ張られるのに気づき、そちらに顔を向けた。


「わたし……あんまりお金ないから、みんなみたいに豪華じゃないんだけど、ペンケースボロボロの使ってたから。これ……」


 と、うつむいて不安げなジョーカーは直方体のプレゼント箱を俺に渡してくれた。

 開けてみると、焦げ茶色の革の渋いペンケースが入っていた。その渋さがかっこいい。


「ありがとなジョーカー。すげーかっこいいよ」


「ほんと? 気に入ってもらえたら嬉しいわ」


 頭をなでてやるとジョーカーは気持ちよさそうにほほえみながらそう言った。

 一生懸命選んでくれたんだな。じゃないとあんな不安そうな顔はしないからな。


「あの……わたしもあんまりいいものじゃないんですけど。これ……」


 と、こちらも不安げで元気なさげな凛は小さなプレゼント袋を取り出す。


「初めてクッキー作ってみたんです。食べてみてくださいっ!」


「ありがとう」


 袋を開けてみると、大きな黒いハート型のクッキーが入っていた。チョコレートクッキーかな?


「おいしそうだね。いただきます」


 ――ぱくっ

 ――もぐもぐもぐ


(に、にがっ!)


「どうですか? 隆臣に最初に食べてもらいたくて、味見はしてないんですっ!」


「う、うん! とってもおいしいよ! うん……うん」


「本当ですか!? よかったです! 喜んでもらえて嬉しいです! ふふっ」


(俺も喜んでもらえて嬉しいです……)


 と思いつつ、俺は黒焦げになって苦いチョコクッキーを、凛のかわいさに免じてまるごと1つ食べた。


「あとこれも……」


 凛は恐る恐る小さな袋を差し出す。

 中身は小さな黒猫のストラップだった。


「それ、みゃーこですっ! お友達に教えてもらって作ったんですっ!」


 触ってみると中には綿が入っているようでやわらかい。


「すごくよくできてるよ。ありがとう」


「へへへ」


 凛の頭をなでなですると、ジョーカーと同じように気持ちよさそうにほほえんだ。ほんとにまったくかわいいなぁ。子猫みたい。

 凛とジョーカーは顔つきやしぐさが本当によく似ている。凛がシュヴァルツブルク=ルードシュタット家の末裔で、リンカ(ジョーカー)の子孫だということがはっきりわかる。

 とはいえ370年もの年月が経っている。やはりこの2人には何か特別な縁があるのかもしれない。


◾隆臣


 俺はようやくわかった。この子がわかった。この子はただの女の子だということがわかった。

 たしかにこの子は天才だし名家の末裔だ。だがそれ以前にか弱くてさみしがり屋でお茶目なかわいらしい女の子なんだ。

 世間は勘違いしがちだが、俺は知っている。この子の強さも弱さも、笑ったときも泣いたときも、猫が好きなこともマカロンが好きなことも、ピーマンとセロリが嫌いなことも実は社会科が苦手だということも。

 そんな俺だから言えることがある。この子は意外と普通の少女なのだ。自分が天才だとか貴族の末裔だとか未来が見えるなんてことはこの子には一切関係ない。家族を愛し、友人を愛す、そんな無垢な少女なのだから。

 この子は俺にとって友達でも、もちろん恋人なんかでもなく、ただただ大切な人だったんだ。だから俺はこの子のために命懸けになることができたんだ。そんな人に出会えて、俺はうれしい。



 To be continued!⇒

ご閲覧ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ