第58話 パリナイ
◾隆臣
息の詰まるような殺伐とした日々から解放され、1週間と数日が経った。
あれからマフィア・マリーノファミリーは崩壊し、残党は次々に逮捕された。
そして今日は主催者である凛をはじめ、ジョーカー、俺、エースはもちろんのこと、最初は敵同士だった尚子、ハート、クリス、ダイヤ、それからナディアも含めた9人が秋葉原の豊園邸に集まっている。
この9人全員が顔を合わせるのは、実はあの満月の夜ぶりだったりする。
テーブルにはとてもおいしそうな料理がたくさん並べられている。これらは凛、ジョーカー、エースが昼から豊園邸に訪れて尚子とハートとダイヤといっしょに作ったものだ。
俺は今最高に幸せだ。とってもかわいい女の子たちの手作り料理を食べられるなんて、俺は超幸せものだ。
でも心配なことが一つある。それは、凛とジョーカーは驚くほど料理が下手だということだ。もう見るに堪えないくらい。
それでも頑張って作ってくれたと思うだけで、俺は涙が出るくらい嬉しい。
俺の隣にべったり寄り添って座る凛の指を見ると、絆創膏を何ヶ所も貼っていて、血が滲んでいる。凛の対面に座っているジョーカーも同様だ。
どうやら相当悪戦苦闘していたらしい。こりゃ鉄分も豊富に取れそうだな。
なんて冗談は置いといて。
「みなさん、今日はお集まりいただきありがとうございますっ! 楽しみましょう! カンパイっ!」
『乾杯!』
凛の挨拶で、俺たちはグラスを軽く打ち合わせ、各々取り皿に料理を取り分けはじめた。
どれもこれも非常においしい。きっと尚子たちは料理が上手なんだな。凛とジョーカーの分までカバーしてくれている。とも思っていたが、尚子曰く凛とジョーカーは今日一日でだいぶ腕を上げたらしい。
2人においしいぞって伝えたら、最高にかわいらしい天使な笑顔で喜んでくれた。食事中だったけど手を止めて、ついつい2人の頭をなでなでしてしまった。
たわいない話や世間話、今後の話などをしながら食べ進め、すっかり盛り付け皿が空になったところで、部屋が突然真っ暗になった。
「なんだ? 停電か?」
俺がそう言ったとき、いくつかの小さな火の玉が空中に浮かんだ。
『ハッピバースデートゥー! ユーハッピバースデートゥーユー! ハッピバースデーディア隆臣〜! ハッピバースデートゥーユー!』
――パチパチパチパチ!
「ん?」
俺はこの状況がよくわからなかった。
「どうぞっ! ふーっと消しちゃってくださいっ!」
凛のかわいい声が暗闇の中から聞こえてくる。
火の玉の灯りでその周辺だけ視認することができた俺は、火の玉がロウソクの上にあり、その下のケーキとそれを持つ凛、ジョーカー、エースを照らしているのがわかった。
俺はようやく合点がいった。これは俺の誕生日ケーキだということに。
「隆臣の誕生日、例の事件のせいでできなかったから、みんな集まれる今日やろうと思ったんだよ」
「10日も遅れちゃったけどね」
エースとジョーカーも続けてそう言った。
「そっか……そういえばそうだったな」
まさか祝われるとは思ってもいなかった。
いくら兄妹みたいに仲良くなったからって、俺は本来三鷹家の家政夫なのだから。
でもこの子たちはそんな俺のためにこんなにも盛大に誕生日パーティーを開いてくれた。
俺は大きな感動を覚えた。なんていい子たちなんだ。全員順番に頭をなでてあげたい!
俺はふーっとロウソクの火を吹き消す。
部屋の照明がつくと、凛はちょっと悲しそうに、
「おせっかい……でしたか? でもわたし、隆臣のこと本当の家族みたいに思ってるんですっ! お兄ちゃん……みたいな? やさしくて頼りになってかっこよくて、でもときどき厳しくて……。わたし、ジョーカーがいるけど一人っ子だから、お兄ちゃんが欲しくて、だからなんか嬉しくて……」
と。
凛はすごい。余裕で博士号を取得できるくらいの異次元的頭脳があるし、IQだって200以上ある。運動をやらせれば同世代で右に出る者はいない。宝具・シュヴァルツのロザリオで時間だって操れる。
でもそんな凛も過不足なく1人の少女なのだ。喜怒哀楽だってあるし、感情に流されてケンカすることもある。欲しいものだって、恋をすることだってあるだろう。
「だから隆臣と……」
凛は顔を桃色に染め、意を決したように唾を飲み込み、上目遣いで、
「(将来……本当の家族に…………なりたいです)」
と、小さな声で言った。
「……」
俺は言葉が出なかった。冗談なのか本気で言ってるのかわからなかったからだ。他のみんなもポカンとしている。
「な、なんてね〜! 冗談ですよ冗談! あはははは〜」
凛はそう言って大声で笑った。
「だ、だよな。冗談だよな。ははは」
俺もとりあえず笑っておく。
でも、今思ったことを言っておこう。
凛! かわいい! 結婚したい!
To be continued!⇒
ご閲覧ありがとうございます!