第54話 シュヴァルツのロザリオの復活
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凛の目は虚ろだった。
それもそのはずだ。自分以外の全員が惨殺される瞬間を目撃したのだから。
地下に到着して、スペードは凛を地面に放り投げる。
私はスペードからクリスとナディアの虹の魔力石を受け取り、計6つの虹色の魔力石を手に持った状態で、十字架の墓石に近づいた。
すると6つの魔力石から眩い白い光が発生し、墓の中に吸い込まれていく。
光を吸収した墓――いや、その周りの空間が青白く光りだす。
「おお、これはッ!」
私が凛を墓の前に持って来ると、十字架の中央部分を中心にして、凛のクレヤボヤンスとまったく同じ立体的で複雑な魔法陣が次々と展開される。
全ての魔法陣が展開されると、十字架の周りはより一層光を強めた。
「よし、スペード掘り起こせ」
「はい、お父さま」
スペードは私の言葉に頷いて、墓の前に立ち、墓石の前の地面のエネルギーを少しずつ吸収していく。
そしてついに、金属板のようなものが現れた。
「これは……ッ!」
「っ!」
スペードはすぐに、金属板の上にある土をすべて除去した。
「やはり棺桶だ」
そこには――Linka von Schwarzburg-Rudolstadt――と金色の文字で書かれていた。
「この中にロザリオがあるのか。開けるぞ」
「はい」
私は蓋に手をかけ、棺桶をゆっくりと開く。
瞬間、驚愕した。
「お父さま……これって!」
「こんなことが…………」
その棺桶の中には、370年前に死んだはずなのに――ただ眠っているだけなのではないか、よくできた人形なのではないか、死んだ直後に時間でも止められたのではないか――そんなことを思わせる小さな少女の全裸の死体が入っていた。
「こいつ……誰かに似ていると思ったら、あの2人――凛とジョーカーに、同一人物だと言われたら素直に受け入れてしまうくらい、とてつもなく似ている。一体どういうことだ……」
スペードは恐る恐る、死体のリンカ・フォン・シュヴァルツブルク=ルードシュタットの頬に触れる。
「ぷにぷにです、お父さま」
「ふむ……」
私はリンカの手に握られている銀色のロザリオを奪い取った。
数珠部分は全て金の魔力石で、十字架にはイエスが磔られており、メダイはマリアのものとなっている。
「やった! ついに…………手に入ったぞ!」
私は念願のシュヴァルツのロザリオを手に入れて歓喜した。
「お父さま、さっそくロザリオの力を試してみてください」
「ああ、そうだな」
私はスペードの提案に乗って、プラチナの指輪をはめ、その側面から小刀を出して、それで左手の親指を切って血を出す。
その血を右手で握るロザリオの十字架部分に付けようとしたその瞬間、
「ん? 触れられない。十字架に……触れられない! どういうことだ!」
まるで磁石の同極どうしを近づけたかのように、親指と十字架が反発するのだ。
そしてその反発力はすぐに超強力になり、私は左手から後方に吹っ飛び、ロザリオは前方に吹っ飛んで地下空間の壁にあたった。
「な……にッ?」
そして私は目を疑ってた。
「『宝石は磨かれなければ光らない。人は試練がなければ完成しない』。試練を乗りこえたとき、はじめて人間は成長できる。だからあなたは成長できないわ!」
そんな声が響いてきた。
私とスペードは声の主に目をやった。
「ジョ、ジョーカー……お前ッ! 再発現するパワーがまだ残っていたのか!」
「違うわ。わたしは試練を乗り越えたのよっ!」
全身傷だらけで、至るところから血を流したジョーカーは、地面に倒れている凛の上で浮遊していた。
「試練を乗り越えた……だと?」
「ええ、そうよ。でも、あなたは何の試練も乗り越えてないから、新たな力を手に入れる資格がないわ」
「フッ! 笑わせやがって」
ジョーカーは、ロザリオと自分との間にはたらく万有引力を強めて、ロザリオを回収しようとする。
「スペード! 今度こそ確実に殺せッ!」
「はいっ!」
スペードは吸収していたエネルギーをジョーカーの目の前で放出。
瞬間、ジョーカーとスペードの両者の全身から血が吹き出し、互いに後方に吹き飛んだ。
「くはっ!」
「……っ!」
全身の骨が砕け折れ、肺に肋骨が突き刺さり、筋肉がちぎれかけているにも関わらず、ジョーカーは自分の方に転がってきたロザリオを手に握った。
「これは絶対に……渡さないわっ!」
私とスペードは2つのことで驚いていた。
まず1つはスペードが謎の攻撃を受けたこと。
もう1つはジョーカーの精神力だった。
「これは……試練だ! おお神よ、わたしに試練を与えてくださり、ありがとございます……アーメン。
そしてすべてを思い出したわ。生前の記憶。本当に全部。そこのリンカ・フォン・シュヴァルツを見てね。そう、わたしの生前の名前は……」
ジョーカーはそう言って大きく息を吸い込んで――
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