第52話 真打登場
◾隆臣
「あそこに3人が隠れている」
第九感で3人の位置を把握できているナディアは、俺たちにそう教えてくれた。
「ダイヤ、ジョーカー! 頼んだ!」
「……ん!」
俺の指示で、ダイヤは空気中の水蒸気から大量のつららを形成して放ち、ジョーカーは砕けた石畳の欠片を万有引力操作で次々に発射した。
アンナ、ストレート、マリアは正門の陰に身を隠した。
◾アンナ
門の間を石とつららの弾幕が通り抜けていく。
「ふぅ、危ない野郎だぜ。ってなんだこれ?」
私の肩のところに、紙を切って作ったような手足頭のあるペラペラな人形がいて、その紙人形が血の付いた1枚の紙を抱えているのがわかった。
これは……ッ! ナディアの魔力粒子駆動式の紙人形!
私はその紙人形を肩からはらおうとした。
しかしその直前に、
――ドゴーンッ!
血の付いた紙は紙人形もろとも爆発し、私たち3人を巻き込んだ。
私たちは負傷し、弾幕の方に吹き飛ばされてしまう。
「ストレート! 防げ!」
ストレートは鋼鉄の壁を作り出して、弾幕を防いでくれる。
しばらくして弾幕が壁にあたる音が消えた。
「終わったか……?」
私の声で、ストレートは鋼鉄の壁の一部に小さめの穴を開けて、そこからやつらの様子をうかがおうとする。
瞬間――
――パンッ!
乾いた音と共に、ストレートは仰向けにぶっ倒れた。
「「ッ!?」」
私とマリアは目を見開いた。
ストレートは光の塊となり、私の中に戻ってくる。
鋼鉄の壁が砂のように崩れていき、拳銃を持った隆臣の姿が現れた。
「貴様……ッ!」
私とマリアは狼狽していた。
「エースの能力は、自分や他人の分身を作ったり身体能力を強化すること。しかし、それは少し違った」
隆臣の後ろからエースが現れ、
「解釈が違ってたんだよ。分身を作るっていう解釈がね。
わたしのガイスト能力は分身を作ることじゃなく、何かを複製――コピーする能力だったんだよ。
第九感と併用することで、どんな複雑なものでも複製することができる。それでストレートが作った拳銃をコピーしたんだよ!」
と、説明した。
「くッ! こんなことがッ! こんな酷いことがッ!」
隆臣の逆の手にもエースが複製して作った拳銃が現れる。
隆臣は私とマリアにそれぞれの銃口を向ける。
浮遊しているハートとダイヤが私を見下ろしてきた。
私は死ぬんだな、と思った。
どうして負けたのか、まったくわからない。なぜ私たちが負けてしまったのか……考えても考えても、答えは出ない。
「だめ! お願い! お姉さまは殺さないで! お願いお願いお願い!」
マリアは必死に私をかばってくれる。
「…………」
「…………」
ハートとダイヤは無言のままマリアを見つめる。
「お姉さまを殺すなら……わたしを殺して!」
マリアは叫んだ。
ハートはポシェットから爆薬を取り出し、ダイヤはつららを形成し始めた。
だが、
「無理だよ、人を殺すなんて……あたしには…………」
「……っ!」
ハートとダイヤはうつむいた。
石畳にはポツリポツリと、水玉の模様ができては消えできては消え。
「復讐なんて……できない!」
「……うぅ」
2人の手はぎゅと握りしめられていた。
2人に人殺しなんてできないのだ。心が弱いから。
この子たちは自分の弱さを呪いたくなっただろう。
でもそれでいいんだ。それが普通だから。優しいって証拠だから。
悲しみと悔しさがハートとダイヤの心に複雑に絡まっていのだろう。
私はそれが羨ましい。私は狂っているから……私の心は壊れているから、優しくなれないんだ。
ハートとダイヤだけじゃない。こいつらはみんな優しすぎる。
そんなとき、
――ドーンッ!
轟音とともに、本殿の瓦礫が空中にぶっ飛んだ。
私たちそちらに目を向ける。
「『学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる』。私はこの1週間でこのことを本当に思い知らされたよ」
赤髪の男と少女が並んで出てくるのがわかった。お父様だ。お父様とスペードが来たのだ。
To be continued!⇒
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