第47話 千里の神眼の力
◾凛
ナディアさんは千里の神眼についての説明を始めました。
「千里の神眼は数秒先の未来の光景を視認することができる第九感だ。代々シュヴァルツの直系に受け継がれてきたものでおそらくノエルの第九感に共鳴して発現したのだろう。ところで本当に未来が見えているのか?」
ナディアさんは首を傾げて尋ねてきました。その質問にわたしは至って真面目に、
「それじゃあナディアさん、わたしとじゃんけんをしてみましょう」
と答えます。
「そうだな。それが手っ取り早い」
というわけで、わたしとナディアさんはじゃんけんをすることになった。
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結果は10回やって10回ともわたしが勝ちました。
「驚いた……これは本物だ」
ナディアさんは目をまんまるにして言いました。
「自分でもびっくりしてます。左目で見える光景が、全部例外なく少し遅れて右目でも見えるんです。なんか頭がこんがらがっちゃいますね」
「……そう、だな。そのままじゃ日常生活に差し支えるだろう? 今から眼帯を買ってくるから、左目につけるといい」
ナディアさんはそう言ってジョーカーと一緒に部屋を出ていきました。
わたしの代わりに眼帯を買ってきてくれるなんて、ナディアさんはとってもやさしいです。
◾ジョーカー
「ナディア、あんた何か隠しているわね? わたしには言いなさい」
わたしの問いかけにナディアは大きく頷き、
「わかった。じゃあ単刀直入に言おう」
ナディアは少し間を置いた。
なんだか嫌な予感がする。怖い。ナディアの言葉を聞くのが怖い。取り乱してしまうかもしれない。
「凛は……もうすぐ死ぬ」
「え?」
わたしはナディアの言ったことが冗談としか思えなかった。取り乱すことはなくむしろ冷静だったのは自分でも予想外。
「嘘……よね?」
「本当だ。実際にシュヴァルツ家の歴代のクレヤボヤンスの保持者の死因はクレヤボヤンスによる魔術侵食だ」
「魔術侵食……」
「ああ、クレヤボヤンスは第九感と言ったが厳密に言えばあれは宝具……すなわち大魔法を導く魔導具だ。魔法を行使するためには体内由来の魔力粒子が必要だろ? それがなくなれば保持者の体内エネルギーを利用して魔法を展開し続けようとする。体内エネルギーが枯渇した者は……いずれ死ぬ」
ナディアは冷淡に言い放った。
「それを……どうにか止める方法はないの?」
すがるように尋ねる。
「1つだけある。それはシュヴァルツの大魔法の復活――すなわちベルリンの魔力源を復活させて体内エネルギーの代替となる魔力粒子を生産することだ」
「世界全体の魔力濃度が上昇するってことは体内に取り入れる魔力源由来の魔力粒子の量も必然的に多くなる……つまりより多くの魔力源由来の魔力粒子が体内由来の魔力粒子に変換される」
「そういうことだ。でも魔力源を復活させることはボスの目的と一致してしまう。……要するに私たちのしなければならないことはベルリンの魔力源を復活させ、なおかつボスにロザリオを渡さないことだ!」
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ナディアはみんなに凛がクレヤボヤンスを発現したことを説明した。凛が死の危機に瀕しているということを除いて。
◾ナディア
翌朝。
『2日後の月曜日は観測史上最も大きな満月が見られる日です』
連日続いていた吸血鬼事件の報道は一段落つき、今はそんな呑気な報道をしていた。
クレヤボヤンスの効果で未来が見えてしまうと日常生活に支障が出るので、凛は左目に眼帯をしている。
眼帯をしてもにじみ出るかわいさ……さすがは絶世の美幼女たる凛だ。
――――――――――――――――
その日の午後、私はノエルが収容されている湾岸拘置所吸血鬼収容施設に訪れそこでノエルから話を聞いていた。
「ノエル・シャルル・アラール=デキシュ。嫉妬で親友のリンカを殺した真祖の妹が、まさか剣傘下のマフィアの幹部だったとは予想外」
と、私。
「リンカ……? ああ、あの禁忌の魔女のこと? それいつの話? 3世紀くらい前だっけ?」
「370年ほど前の話だ」
「へー。それなら僕が13歳くらいのときか」
ノエルは思い出すようにそう言った。
「ところで、その気になればボスは真祖も利用できたんじゃないか?」
私の質問にノエルは首を横に振って、
「ボスの最終目標は真祖エリオット――つまり僕の兄さんを殺すことだ」
「え?」
「何でかは知らないよ。剣にそそのかされたんじゃない? ボスのガイスト――ロイヤルストレートフラッシュはたしかに強い。けど兄さんには到底及ばない。だからボスは新たな力を手に入れようとしているのさ。シュヴァルツの大魔法だよ。それを手に入れるためにボスは虹色の魔力石をかき集めてはるばる極東までやって来た。そして満月の夜……魔力が最も活性化する夜にボスはベルリンの魔力源を復活させようとしている」
ノエルはそう言って一息つき、
「もしリンちゃんを助けたいのなら2日後の満月の夜、神田神社に行け」
To be continued!⇒
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