第43話 第六の事件! 脅威的! ノエルの能力!
◾ジョーカー
「この部屋だよ」
エースは霊体化して内側から404号室の玄関ドアを解錠した。
全員が顔を見合わせて頷き中に入った。
廊下の奥の居間の隅には手足を縛られダボタボのTシャツを着せられ倒れている凛がいた。首筋からは血が伝っている。
だがノエルとクローバーの姿は見当たらない。
「霊体化して隠れてるのかもしれないわ。気をつけて!」
注意換気をしてわたしは先頭を切って進む。
短い廊下を抜けて凛のところまで向かおうとしたそのとき、わたしたちは目の端に映りこんだ光景に唖然としてしまった。
キッチンの奥に30代くらいの男女2人が倒れていたのだ。どちらも首筋には2つの小さな穴が空いている。
隆臣はキッチンの方に歩いていき、
「息はしてる……気を失っているだけだ。血を吸われすぎて貧血ってところか? どうやら最近頻発していた吸血鬼事件の犯人は、ノエルだったみたいだな」
と判断した。
「電気をつけるぞ」
クリスは照明のスイッチを押した。その瞬間、クリスの右手から血が吹き出す。
「くッ! ちくしょう! 攻撃を受けた! やつらは壁の中に潜んでいてるぞ! 壁から離れろ! 部屋の中央に寄れ! やつらの攻撃は見えないわけじゃない! 霊体化して近寄って、手とナイフだけ実体化させて攻撃してきているんだ! いいかお前ら! 実体化したその瞬間を狙え!」
と、クリスは策を講じた。
全員がリビング中央に集合。そしてノエルとクローバーの攻撃に備える。
エースは夜空色の瞳を空色に変化させて辺りを見渡した。
「ノエルとクローバーが見えるよ! 尚子! 後ろに避けて!」
叫ぶエース。
現れる2つの右手と2つのナイフ
歯噛みして狼狽する尚子。
ダイヤは空気中の水分からつららを作り出し発射。
しかし命中する直前に2つの右手は霊体化して消えてしまった。
「あれ? ノエルがいない。どこに消えたの!?」
驚き慌てふためくエース。
「後ろだ!」
現れたノエルの右手を見て隆臣は叫んだ。
だが遅かった。
エースが後ろを向いたその瞬間、ナイフはエースの両目を狙う軌道でスライド。
エースの両目は弾けて潰れ、続け様に実体化したクローバーの右手により首を突き刺される。
「エースッ!」
「ご……め、ん」
エースはそう言い残し霊魂となって隆臣の体の中に入っていった。
直後、
――ハハハハ! 手も足も出ないって感じだねぇ
ノエルの憎たらしい声がどこからともなく聞こえてきた。うざい! むかつく!
――正直言って早めにエースを倒せてよかったよ。エースの能力はクローバーの能力と相性が悪すぎるからね。ま、大したことなかったけど。たとえどんなに強力なガイスト能力であっても霊体に干渉することはできない。炎も水も引力も! エースを無力化した今、僕たちを認識できるものは誰もいない。ナディアさえもね
次の瞬間、ナイフを持った右手がハートの頭上に現れた。
――だからあとはゆっくり、確実に1人ずつ殺していく。まずはハートから!
ナイフを持った右手が振り下ろされた。しかしその腕は唐突に壁の方に吹っ飛ぶ。
「あら? べつに見えないからなんだって言うのかしら?」
わたしは腕が出現した瞬間に万有引力操作で腕ごと霊体を壁の方にぶっ飛ばしたのだ。
「凛は俺が連れいていく! みんなは先に外へ!」
隆臣の言葉で隆臣を除く全員が玄関から外に飛び出た。
◾隆臣
俺は凛を回収するために部屋の隅に向かった。
――待ってたよ。君のことを
この声は……クローバーだな。今言うことではないがなかなかかわいらしい声だ。
壁からナイフを持った手が現れ俺の首筋を狙ってきた。
俺は咄嗟に軌道上に右手を置いて首筋を守る。だが手にナイフが突き刺さってしまった。くそッ! いてぇ!
「待ってたのはこっちの方だぜッ!」
俺は左手に力を込めナイフを持つクローバーの右手に手刀を放つ。命中する直前に右手は消えて空振りに終わる。
俺は右手からナイフを抜き凛を抱えて玄関から抜け出した。廊下を疾走して階段へ向かう。
ノエルとクローバーは壁をすり抜けて後を追ってくる。それはズルすぎるだろ。
俺は凛を抱えたまま階段を駆け下りる。霊魂状態では走るよりも移動スピードが遅いはず。なのにこいつら全力疾走の俺よりも全然速いじゃねぇか!
ノエルとクローバーに先回りされ俺は右ふくらはぎを切られてしまう。
奥歯を噛みしめてそのまま走り続けるが続いて右足の太ももをナイフで突き刺され体勢を崩し踊り場部分で凛を上にして背中から倒れてしまった。
――捕まえた。2人まとめて殺してあげる!
2つの右手が実体化し同時にナイフを逆手に持ちかえる。
「はははははは」
俺は笑った。状況に絶望した主人公のように。または優越感に浸る敵役のように。
――何を笑っているんだい? 恐怖で頭がおかしくなったのかい?
ノエルの問いかけに、
「恐怖で笑うやつなんていねーよ。いたらそいつはただのバカだ」
――じゃあなんで笑うんだい?
「なんだと思う。当ててみな」
――わかった! 僕たちの手だ! 宙に浮いているように見えているのがおかしいんでしょ!?
「違うね」
俺は1枚の血の付いた紙切れをかざした。そしてそれを手から離し階段の下に凛を抱えながら飛び降りた。
「ナディアのルーン魔術だぜッ!」
「ッ!」
――ドゴーンッ!
瞬間、踊り場で大爆発が起きた。
ノエルとクローバーは爆発に巻き込まれ実体化していた右腕の一部が爆発で吹き飛びズタボロ状態になった。
「クローバー、もう戻っていいよ。あとは僕だけでなんとかするから」
実体化したノエルはクローバーに優しく声をかける。
「う、うん。役に立てなくて……ごめんね」
右腕がボロボロになって、骨が所々見えてしまっているクローバーは自ら白い光になってノエルの中に消えていった。
「大丈夫か?」
クリスが駆け寄ってきて負傷した俺の代わりに凛を抱きかかえてくれる。
「ああ心配ない。それよりハート。俺のハンドシグナルちゃんと理解してくれてたみたいだな」
「ま、まあね! あたしはかしこいかしこさんなんだから!」
照れすぎてちょっと謎のことを言うハート。
ハートがあの踊り場に爆薬を撒いていてくれたのだ。そのおかげでナディアの燃焼魔法を利用して巨大な起こすことができたのだ。我らながらナイスな連携だったと思う。
「ノエルが下りてきたぞ!」
ナディアが指さす先には、
「さて……第2ラウンドといこうか」
爆発により負傷したはずの右腕を特有の凄まじい回復力で元の美しくてきめ細やかな右腕に戻しながらノエルは悠々と階段を降りてきていた。
その瞳からは鋭い眼光が放たれていた。
To be continued!⇒
ご閲覧ありがとうございます!