第40話 第六の事件! ジョーカーVSノエル&クローバー
遅くなりましたが、よろしくお願いします!
◾凛
部屋に戻るとわたしはさっそくスマホでジョーカーに電話をかけてみました。出て欲しかったしでも出て欲しくなかったです。実際ジョーカーなしではボスに勝てないと思います。けどさっきの喧嘩で合わせる顔もありません。とても不安な心持ちのまま待ちましたがジョーカーには繋がりませんでした。
わたしは少しほっとしましたが同時に胸騒ぎがしました。
ジョーカーがスマホを置いていったのならばこの部屋から着信音が聞こえてくるはずです。でも聞こえてこないのでジョーカーはスマホを持っていったと予想できます。
しかしジョーカーは応答しなかった。ただ拗ねているだけならいいです。でももしさっき豊園邸を出ていったノエルくんとクローバーちゃんに出くわして襲われていたら……。
自分のガイストですが正直いって吸血鬼のノエルくんとそのガイストのクローバーちゃんには勝てないと思います。
不安感がわたしの心を一気に支配しはじめた。
「ジョーカーを探さないとっ!」
喧嘩したとはいえジョーカーはわたしにとって大切な家族。放っておけるわけがありません!
◾ジョーカー
わたしはスマホや財布、護身のためについ最近購入したナイフ数本などの必要最低限の荷物を持ってあてもなく歩いていた。
豊園邸を出る前にエースに見つかったが何とか言いくるめて今にいたるわ。
「はぁ……」
勝手にため息が出てきた。
凛に酷いことを言われたからといってあんなことを言い返すのは少し大人げなかったわ。少し後悔してる。
凛はわたしのとっても大切な家族。だから本当はしっかり謝って仲直りしたい。
「凛……」
人気のない和泉公園に入ってブランコに腰をかけた。
空気はじめっと生暖かくて気持ち悪い。座面の対照的な冷たさがおしりから伝わってくる。
スマホを取り出すと時刻は20時を過ぎてていた。21時くらいになったらこっそり戻って謝ろう。
わたしはブランコを漕ぎ始めた。
こうしてブランコで遊ぶのはいつぶりかしら。おじいさまが作ってくれたのに乗ったとき以来かしら? おじいさまったら指を血豆だらけにしてブランコを作ってくださったんだっけ? あれはわたしの誕生日のときだったかしら?
生前の自分の誕生日がわからない。名前すらもわからない。なのにどうしてこんな記憶は覚えているのかしら。
いつの間にかテンションが上がっていてわたしはまるで放課後の小学生のように無邪気にブランコを漕ぎ始めた。
そして最高到達点でブランコから飛び降り極短い時間だけ宙を舞う。
人間は道具なしに空を飛べない。しかしガイストとなった今では容易に浮遊することができる。
生前わたしは空を飛びたかった。羽が欲しかった。小さい頃はよくおじいさまのブランコから飛び降りて何度も怪我をしたことがあった。
それでも何度も何度も挑戦した。もちろん空を飛ぶことは叶わなかったわ。
しかし死んでガイストになってこんなにも簡単に空を飛べるなんてなんだか拍子抜けだった。
生前の希望のようなものが蘇ったのか、わたしはまたブランコに乗って、飛び降りた。
何やってんだろわたし……。とは思いつつもわたしの生前の記憶は今の状況を非常に楽しんでいるわ。
何度ブランコを飛び降りただろうか。何分経っただろうか。そういうのがわからないほど熱中していた。
何かにこんなに熱中するなんて生前ぶりかも。
――お久しぶりだね。ジョーカー
そんな声がブランコに乗ろうとしたわたしの耳に入ってくる。男の子か女の子か……中性的な高くてきれいな声だ。
すぐに辺りを見渡し声の主を探す。だがどこにも見当たらない。
「誰!?」
「こっちだよ、こっち」
声のする方向を見るとそこには桃色の髪の毛の2人の少女が宙に浮かんでいた。
わたしはブランコの横のバッグから3本のナイフを取り出し、
「動くんじゃないわよ」
それらの刃先を2人に向けて空中に並べ威嚇する。
「えー! 感動の再会なのにそれは悲しいよ〜!」
「動くなって言ったわよ」
「まったく攻撃的だなぁ、君もリンちゃんも」
単発の少女はやれやれ顔で言った。
「凛に会ったの!?」
わたしの問いかけに少女は気味の悪い笑顔のまま、
「うん、さっき会ってきたよ。だってぼくとリンちゃんは婚約者だもん。ちょっとだけ血をいただいたけどちょー久しぶりにあんな美味しい血を吸ったよ。さすがはシュヴァルツの血統だねぇ〜」
「血? あんたは吸血鬼!?」
「ほんとに何も覚えてないんだね……。まあもうどうでもいいよ。リンちゃんは君のことであ〜んなに落ち込んでたのに、君はリンちゃんのことなんてこれっぽっちも気にしてないんだね〜。あははは」
「ちがっ! そんなんじゃ!」
「リンちゃんの悲しむ姿が見たくなかったから君にはなぐさめて欲しかったけどそんな様子じゃあねぇ〜。ほんとにどうして、お兄さまはこんなやつのことを……。顔もそこそこだし背小さいしチビだしチンチクリンだし……」
「っ! チンチクリンじゃない!」
わたしは1本だけナイフを放った。わたしはチンチクリンじゃないわ!
しかしそのナイフは2人のうちどちらにも当たることなくすり抜けた。
続いてに残りの2本も放ったが1本目同様命中することはない。
おそらくあの長髪のガイストのせいね。攻撃が当たらないなんて厄介この上ないわ。
「そんなに僕たちと戦いたいの?」
使い手の少女の瞳は冷たい光を放ち桃色から深紅に変わった。
瞬間、わたしは身動きも呼吸も一切できなくなった。金縛りだ!
「どうしてもっていうなら少しだけ付き合ってあげてもいいけど……何度も負けて痛い思いしたのにこんなことも忘れちゃった? 君は僕には勝てない運命だってことをさァ?」
使い手の少女の顔には余裕以上の色がある。不気味に笑っている。
こいつ……生前のわたしを知ってるのかしら? なら色々聞きたいことがあるけど……どうやらゆっくり話し合いができる相手じゃなさそうね。
すると使い手の少女は一旦金縛りを解き、
「で? どうする? 死にたいの? ま、ガイストだからなんど殺しても死なないけど。あっ! ってことはぁ〜へへへ! たーっくさん拷問できるってことだよねぇ! 殺しても死なないなら無限に痛みつけられるってことだよねぇ! きゃはは! はぁはぁいじめてやる! いじめてやるっ! 痛いって言ったらもっと痛いことしてやる! やめてっていっても絶対やめない! ハァハァ」
こいつ……狂ってる。
わたしは奥歯を噛み締めた。正直この2人に勝てる気がまったくしない。
今まで戦ってきたどの幹部たちとは比べものにならないほどの――わたしを押し潰そうとする巨大でただならぬオーラをまとっている。
吐き気が込み上げてくる。これ以上ここにいてはいけないと本能では理解していた。
しかし逃げ出したいのに足が動かない。でも呼吸は異常に速い。使い手の少女の第九感による金縛りにかかっているわけではない。でもどうして足が動かないの?
「はは、恐怖しているね。恐怖で足が固まっているね! 逃げたくても逃げられないって感じかな?」
そうわたしは本能的に恐怖していたのだ。この女に。
わたしは自分自身と公園内に生えている樹木との間にはたらく万有引力を強め無理やり自分を2人から離れさせた。
背中を強く打ちつけるがそれにより正気に戻ることができた。すぐに立ち上がり背中を向けて2人から逃走した。負け犬のように。
しかし行く手を塞ぐように2人が虚空から出現する。
「ジョーカー、やっぱり君のもいただいておくよ」
再び使い手の少女の瞳の色が変わりそれと同時にわたしは金縛りにかかった。
わたしと少女の唇が触れ合う。唇に痛みが走り、血が滴る。
こ、こいつ……っ! わたしの血をっ!
「やっぱり……おいしいな。お兄様が虜になるのも今なら気がするよ」
使い手の少女はわたしの血の味を満足気に堪能している。
使い手の少女の第九感の能力効果時間が過ぎるとわたしは力なく地面に膝を着いた。
はぁはぁ、頭がぽわぽわするわ……。
そんなわたしの姿を蔑むように見つめ、
「それじゃあまた。次会うときは、絶対殺すからね? おチビちゃん!」
使い手の少女はそう言ってガイストの少女と共に虚空へと姿を消した。
To be continued!⇒
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